桃色吐息
23
九月は雨が多いけれども、私達はとても気持ちのよい晴れの日に生まれたと、両親から何度も教えてもらった。

そういえば、誕生日に雨が降っていた記憶がないな。忘れているのかもしれないけれど。

毎年蓮と一緒にうちかおじいちゃんのうちでお祝いをして、ケーキを自分で焼いてみんなで食べて、プレゼントをもらってってそんな感じだった。

ビトと付き合ってからもそれは変らなくて、誕生日に会えたとしても、その家族でのパーティの輪にビトがいるかいないかってぐらいの違いで、仕事とかがあると誕生日でも一日会えないこともあった。


私はそういう記念日って、あまり執着がないのかもしれない。
生んでくれたお母さんに感謝するようにって、お父さんから毎年言われ続けていたから、祝ってもらうよりも、お母さんに感謝する日っていう感覚の方がつよかったかもな。




「おはよう桃、お誕生日おめでとう。」

いつもの時間よりちょっと早めに起きて下の部屋まで行くと、お母さんが台所からいつもの笑顔で早速祝ってくれた。



「うん、あのお母さん、産んでくれてありがとうございます・・・」

毎年のその言葉をちょっと照れながら伝えると、子供のときと同じように、ぎゅっと抱きしめてくれて、
「こっちこそ、生まれてきてくれてありがとうだよ。」なんて答えてくれる。


「今日はエイジ君とデートでしょ?」

早々と準備をしている私に、お母さんがいつものおにぎりと味噌汁の朝食を用意しながらいうから、「門限までには帰るよ」って伝える。


蓮は昨日から、ずっとカオリさんのところに行ったきりだ。
二学期が始まってからも、ずっと週末には彼女のうちにお泊りしてる。



私達の待ち合わせは、朝の8時。
いつもよりだいぶ早いのは理由があった。
私はそうしたかったんだ・・・私たちが生まれた時間だったから。


今日は一日エイジ君といっしょに居られるんだと思うと、心が高鳴る。

そして、あの約束の期限も今日だったから、もしかしたらと淡い期待も抱いていた。




始めてのデートで着ていたあのワンピースに着替える。

私の恋は、あの坂道を登って始まったんだ。

このワンピースを着て、エイジ君と手を繋いで、一緒に走った原宿の街を、私は一生忘れないだろうと思う。





うっすらと化粧をして、ピンク色のグロスを重ねると、私は行って来ますと気合を入れて出かけた。

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