桃色吐息
原宿駅前のいつもの待ち合わせ場所、五分前に改札を過ぎると、やっぱりエイジ君は先についていて、横断歩道の前で小さく手を振った。

「誕生日おめでとう。」

8時ちょうどにエイジ君がそういってくれるから、嬉しくて泣きそうになりながら笑った。


「今日はお前の行きたいところ、ちゃんと付き合うから。」

「うん、ありがとう。」


ずっと2人で行きたかったパンケーキのおいしいカフェ。
朝食がおいしいので有名で、朝からでも結構並んでいる。

エイジ君もあの時と同じドクロ柄のTシャツを着ていて、首元には南京錠型のネックレス。
この前見せてもらった写真集に載ってたシド・ヴィシャスのだなって思う。


あの時と同じようで違う。
もう、あの首筋の赤いあざはないんだ・・・



エッグベネディクトと、フルーツたっぷりのパンケーキを頼むと、二人でシェアして食べる。

丁寧に入れてあるコーヒーもおいしくて、
「美味しいって、幸せだなぁ・・・」
そんな言葉が漏れた。


「なんか大げさだな。」
エイジ君はそういって笑うけど、だってほんとの事だもんって笑い返す。

きっと食事をするということは、生きるという事。
その行為を大切な人と過ごすということは、ものすごく特別なことで、カップルが当たり前のようにそうするのには意味があるんだ。

ずっとこうして、大好きな人と素敵な美味しい朝食が食べられればいいなと思う。



「なんかゴメンな、サプライズとかないからな。」

エイジ君がふとそんなことを言うから、なんだろうって思う。

「ほらよくさ、やるじゃん。レストランとかで、ケーキに花火つけてきてさ、誕生日に店の人が歌ってくれちゃったりさ。ああいうのハズいじゃんか・・・」


「なんだ、そんなのいいよ、私もそういうの恥ずかしいし、目立つのやだし。」

朝のひととき、ゆっくりと流れていくようで、綺麗に食べ終わった後でもまだお昼までには余裕があった。
さて今日はこれから何をしようか?

待ち合わせとこの店に来ること以外は、何も決めていなかったから・・・



「あのさ、プレゼントあるんだけど、ちょっとうちに来てもらっていいかな?」

エイジ君が照れながら、眼も合わせようとしないでそんな風に言うから、へんな期待をしてしまう。



今日はしてもいいのかなって。













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