桃色吐息
下ごしらえができて、オーブンにケーキを入れて焼きあがるのをしばし待つ。

そうしているうちにお母さんも帰ってきて、新しい材料を広げて私のレシピ本を必死に見ている。

うちのお母さんは、和食は得意なんだけど、お菓子作りはちょっと苦手だ。
きちんと図ったり、きっちり泡立てたりとか、最後の詰めがちょっと甘いんだよな。

「ほら、そこもっとちゃんと混ぜなくちゃ、口当たり悪くなっちゃうでしょ。」

そんな風にダメだししながら、二人でチーズケーキを作るのも楽しかった。


もうすぐビトも来る頃かな?

私は自分の部屋にいったん戻って、着替えて戻ってくると、いつの間にか居間には蓮が帰ってきていて、隣には見知らぬ男の子が遊びに来ていた。




「あ、そのケーキ食べちゃダメ!」

気付いたらお母さんが勝手に私のケーキを二人に出していたので、あわててそう言ったのに、蓮は平気な顔してケーキを食べだしてしまっていた。

ああ、苦労して買ってきて作ったのに・・・もうこれだけしかないのに、悲しくなって蓮をにらみつけてやったら、隣の男の子は笑って私を見ていた。

「ああ、俺いらねーからいいよ。」



なんだかその笑い顔が、自然で優しくて、なんだか不思議な感じがした。

ああ、この人は私を見ても意識していないんだって思った。
< 2 / 128 >

この作品をシェア

pagetop