桃色吐息
「桃、どうした!」

私のことを心配して、エイジ君がすぐにかけてくれたのが、なんだか酷く安心する。

触れられた髪の毛が、はらはらと足元に落ちて、まるで何かの終わりを告げているような気がした。

私の髪が乱れていることにすぐ気が付くと、彼はストールをとって、私の頭にすっぽりとかぶせ、優しく肩をなでてくれた。


「どうした、なにがあった?」

「いっいきなり背後から、髪をつかまれて切られた・・・」


また後から後から涙がこぼれて、だけど彼がいてくれたことがとても嬉しくて、そのまま彼にすがり付いていた。

「ビトのファンか?」

そう聞かれて静かにうなずくと、もう帰ろうといって私を支えて立たせてくれる。

少し足元も震えていたけれども、彼のおかげでやっと歩くことができた。





化粧室を出ると、向こうの廊下の角で、さっきの女性らしき人が叫んでいる声が聞こえた。
警備の人に捕まって問い詰められているらしい。

スタッフの一人が私たちに気付いてどうかされましたかと声をかけてくる。

エイジ君が何かその人に言おうとしたときに、私は慌てて「なんでもないです。」といって言葉をさえぎった。



ここで何かいったら、絶対に事務所にばれて、それからおじいちゃんにもばれてしまう・・・



「なあ、ちゃんと警察とかに届け出したほうがよくねえ?」


会場を離れて歩いていると、エイジ君は心配してそんな風にいってくれたけど、

「私が襲われたって、おじいちゃんにバレたらまずいの・・・」


そして私は、私の両親が遭った事件のことを話した。



「昔ね、うちのお母さんもお父さんのファンの人に襲われたことがあったの。
結構大きな事件になってさ、それを知ったおじいちゃんが、お父さんとお母さんを別れさせようとしたことがあって・・・」

私たちが生まれる前の話、私の両親は、こういったことを乗り越えて結婚したんだ。

でもそれは、ずっと大人になってからのことで、今の私たちとはだいぶ状況が違う。




「おじいちゃんにバレたら、今度こそビトと会えなくなる・・・
もしかしたら、またあの事務所のせいだって、お父さんのこともまた攻められるかもしれない・・・
だから、絶対秘密にしてね。」


エイジ君はそうかと言って、ちゃんと理解してくれたようだった。


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