桃色吐息
それからエイジ君は、私の手をとって、知り合いの美容院に連れて行ってくれた。


原宿のちょっと有名な美容室、そこの店長さんが彼の知り合いらしく、私のこんな様子を見ると、すぐに状況を把握してくれて、閉店間際だというのにすぐにシャンプー台に連れて行ってくれた。



「酷い事されたみたいだね、大丈夫?」

店長の笹沼さんは、そういって私の髪を優しくシャンプーしてくれた。



鏡の前に座って改めて自分の様子を見ると、髪の長さもまばらで、あのロングのストレートだった面影がなくなっている。


「どうしようか、このあたりでそろえておく?」

そんな風に気を使って長めにカットしようかといってくれたけれども、私はいっそのこと変わってしまいたいと思った。

もうあんな嫌な事は忘れてしまいたい、今日から違う自分になるんだと、そんな風に思えた。



「思い切って、ベリーショートにしてくれませんか?」


それだけ伝えると、笹沼さんはちゃんとわかってくれて、手早に私の思ったような髪形にしてくれる。

さすがにベテランの方だけあって、あっという間にカットが終わると、私はやっと自分の顔を見て笑えるようになった。



エイジ君はどう思うだろ? そんな風に思って彼の前に行くと、

「お前、短いのも似合うな・・・かわいいじゃん?」



そんな風に言ってくれて、嬉しくて今度は泣きそうになった。





そうだ、もう捨ててしまおう、この髪と一緒に、嫌なこと全部。

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