桃色吐息
「私ね、ずっと普通の恋がしたかった…

ビトがNYから帰ってくれば、それがかなうと思っていたのに、帰ってきたとたんアイドル事務所に入っちゃってさ。

ただでさえ遠い存在だったのに、どんどん遠くに行っちゃう。
ずっとそばにいるよって、約束してくれたくせに…」


それは本当のことで、エイジ君と出会う前は、ずっとそんなことばかり考えていたんだ。


「なんだか、うまくいかないもんだな…」


エイジ君の方はどうなんだろう?
うまくいっていないのは、そっちも同じなんじゃないかなと、なんとなく直感的に思っていた。





「そういえばさ、エイジ君の好きな人って、どんな人なの?」

思い切ってそうきくと、

「蓮から聞いたのかよ」

さっきの私と同じ台詞を返される。


「なんとなく、カマかけて聞いたらぽろっと教えてくれた。
あ、詳しいことは聞いてないよ。」


私はあの後、そのことばかり気になっていたっていうのに。







「言いたくない、教えねーよ。」


はっきりそういわれて、私は胸がぎゅっとつぶされるような痛みを感じていた。
そうだよね、私なんかにそんな大事なことは教えてはくれないんだ・・・

「変な事聞いちゃってゴメンネ。」


私はまたいつもの作り笑いをして、にっこりと微笑みかけたのに・・・




「なあ、それ止めろよ。」

エイジ君はキツイ口調でそういった。


「お前はそんなんじゃねーだろ?
普通にしてろよ、かわいこぶってんじゃねーよ。
この前みたいにさ、嫌だったら嫌だって顔してればいいし、ムカついたらムカついた顔してればいいじゃねーか。

俺なんかに媚売ってどうすんだよ。」


そこまではっきりいわれると、さすがにぜんぜん私の気持ちをわかっていないこの人に、だんだんイラついてきてしまった。


「なんで?何でそうな風にいうのよ!」


思わず手に持っていたカップを、ソーサーにガシャンと置いてしまうと、カップの紅茶がこぼれ落ちた。

そういうと、今度は逆にエイジ君が笑い出して、なんだかそれも腹が立った。


「何で笑うの!」


エイジ君は、こぼれた紅茶をその辺にあったお手拭でふき取っていた。


「そうそう、そうやってたほうが、お前らしくていいんじゃね?」


本当にこの人は何だろう、私のことをそこまでわかっているくせに、肝心なことは気付かないんだもの・・・




「なんか、ずるい。
エイジ君ばっか、何でも分かってるみたいな気がする。」



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