桃色吐息
家に帰ってまたエイジ君はうちの親に見つかると、いつものごとく居間に通される。

今日は珍しく誰も居なくて、蓮も部活で遅いようだった。



私が着替えてコーヒーを淹れている間に、エイジ君はその辺にあった雑誌を見ている。
確かお父さんが映画の宣伝かなんかで載ってたファッション雑誌。

やたら真剣に読んでいるので、気になるものでもあるのかときくと、有名デザイナーらしい男性を指差した。

「ジョニオさん、知らない?」

そういって、憧れの人だとキラキラした目をしてじっとその記事を読んでいた。

私は知らなかったけど、きっとお母さんとかは詳しそうだな。
ああ、そういえばこのタグ、よく蓮が着てるTシャツのブランドだなあなんて、なにげにエイジ君の隣に座って、じっと一緒にその記事を読んでみた。


「なに?」


急にエイジ君が私の方に振り向くので、凄く顔が近くてびっくりする。

それは本当に無意識で、2人でなんだか急に顔が真っ赤になっていた。


「ああ、ごめん、ちょっと邪魔だったかな。」

私は慌てて離れると、さっき淹れたばかりのカフェオレを飲む。

エイジ君も、また雑誌に目を向けると、私の淹れたコーヒーを飲んでくれた。



「ジョニオさんもさ、バンドやってたんだよ。東京セックスピストルズ。
もろピストルズのコピーバンドだったんだけどさ、すげーカッコいいの。
それがさ、今ではパリコレに出るファッションブランドのデザイナーで社長だもんな、すげーよな。」

今の自分たちと、出発点はさほど変わらないからって、そんな風に話すエイジ君が、なんだか今まで見てきた彼とは違うような気がして、等身大の夢見る高校生なんだなって思う。




ああ、こういう人とデートするには、どういう服装をしていけばいいんだろう。



「ねえ、女の子の服ではどんなのが好き?」

さりげなくそうきいたら、似合ってればなんでもいいってまた曖昧な答え方をされて、それじゃ全然参考にならないじゃんってちょっと怒ったら、なんだか笑われてしまった。


「ほら、この前のお前が着てたワンピースとか、ああいうの可愛いじゃね。」

似合ってたしっていわれて、なんだかあの日のことを思い出して、また何だか胸がいっぱいになってしまう。


「なあ、日曜日何時に待ち合わせる?」

やっと雑誌を読み終わって、コーヒーを飲みほすと、エイジ君はさっきの話を思い出してくれた。


朝の八時にこの前のGAP前に待ち合わせにすると、その後はどうする?なんて聞いてくれるから、パンケーキ付き合ってくれるのかな?なんて期待してしまった。

思わず楽しみだなあなんて小さい声が漏れた

「お前、いつもあんまり外で遊んでなかったんだろ? たまには付き合ってやるよ。」

そういうと、また私の頭を二回ぽんぽんと撫でてくれた。
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