桃色吐息
一瞬何が起こったのかわからなかった。


そのままされるがままに、私は彼の首にすがり付いたまま、唇を重ねている・・・

大きな手が、私の背中を優しく包んでくれているのがわかって、悲しかったはずの涙が、今度は嬉しい涙に代わっていくのがわかった。



そっと唇が離れたとたん、エイジ君はちょっと意味深な表情で
「俺んちに来るか?」と呟く。


それがどういうことか一瞬でわかって一気に顔がほてってくるのがわかる・・・

「うん・・・」


私はただ小さくうなづいた。





それからなんだかお互いに恥ずかしくて、顔も見られないまま山手線に乗っていた。

繋いでいた手を、指まで絡めて、いつの間にか恋人つなぎになっている。


その大きな手をじっと見つめていると、もう離すまいとぎゅっと握り返してくれるのがわかった。




新宿駅で総武線に乗りかえて、高円寺に向かう。

エイジ君の顔を見上げると、ずっと楽しそうに微笑んでいるのがわかった。
今日はずっと不機嫌だったのに、やっとこんな顔をしてくれたんだと思うと、嬉しくて彼の頬にそっと触れた。


「なに笑ってるの?」

彼は私の顔を見て、何も言わずただ嬉しそうに笑った。





初めてきた彼の住むマンションは、駅から本当にすぐ目の前のところで、ビトの住んでいるところよりはもうちょっと庶民的なところ。

エイジ君が鍵を開けてくれて中に入ると、誰も居る気配もしなくて、なんだか一気に緊張してしまう。



確かお母さんと二人暮らしだったっけ?
今日は出かけているのかしら?



靴を脱いでからしゃがんでちゃんと靴の向きをそろえる。
私が立ち上がったとたん、エイジ君はとっさにうちの鍵を閉め、私を抱きしめてくれた。

お互いの手に持っていた荷物が床に落ちる音が聞こえると、



私たちはもう一度、さっきよりも激しく唇を重ねていた。

もう2度と離れたくないと・・・
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