桃色吐息
すっかりお弁当を食べ終わると、もうランチ休憩の時間は終わってしまって、私はもう帰ることにした。

「駅まで送ってやるよ。」

そういって向かった先は、いつもの原宿駅じゃなくて、反対側の表参道駅の方だった。



「なあ、今度からはこっちの駅から来て。」

人通りの少ない裏通りの坂道を登ると、駅は結構近くてびっくりした。

「なんで?」

原宿の方が乗り換え少なくて来やすいんだけどなあ・・・


「また色んな人に声かけられないようにさ。こっちだと人が少ないし、歩きやすいだろ?」

そして、地下鉄から東急の乗換えを教えてくれたので、交通費もそんなに高くはなかった。

色々知ってるんだなあ・・・そして、色々考えてくれてんだなって思う。



「そんなに心配しなくても大丈夫だけどなあ・・・」

そうつぶやいたとたん、ひとつ思い出してしまった、何であっち方向がダメなのか。


ラフォーレの前を通るからだ・・・


きっと、あの辺を歩いていたら、また例の彼女に遭遇してしまうかもしれない。
そう思い出してしまうと、むねがチクンと痛くなる。

私も会いたくないもの、だから明日からはちゃんとこっちから来るようにしようと思った。



エイジ君は、こんなに近くでバイトしていて、あの人に会ったりしないのかなあ?



「桃、どうした?」

駅の改札前でぼんやりとそんなことを考えていると、エイジ君が私の顔を覗き込んで心配してくれる。




「なんでもない。じゃあ、エイジ君バイトがんばってね!」


私は手を振りながら、改札を通り抜けてホームに向かう。


「気をつけて帰れよ。」


何度も振り返って手を振ると、エイジ君は見えなくなるまで改札のところで見守ってくれていた。






< 74 / 128 >

この作品をシェア

pagetop