桃色吐息
「SKASTONSがトップだから、もう入ろうよ。」


会場時間になって、ミヤコさんのバンドを見るべく、私たちは早々と入場した。
ミヤコさんは一足先に、楽屋に戻っていった。


入ってすぐに、売店に行って飲み物を買ってもらう。


「お前何にする?」

氷の入った大きな入れ物に、ジュースなんかのよく冷えた飲み物がたくさん浸かっている。

「お茶でいいや・・・」

「じゃあお茶とこれ。」


って、ビールを指差してるので、ちょっと睨んだら「やっぱお茶二つでいいっす。」って買うのを止めてくれた。



「もう、お酒飲まないって約束したのに、さっきは調子よく飲んじゃうんだもん。」

「いいじゃん、こんなに天気がいいからよ、ちょっと飲みたくなるんだよ。」


2人で空を見上げると、本当に抜けるような青空で、気持ちがよかった。

蓮とその仲間たちは、グッズ売り場でTシャツを買うべく並んでいる。



私たちの席は、Cブロックの左より、関係者席のすぐ近くみたいで、なんとなく見たことのあるようなバンドの人たちが居た。



「あれ、エイジ?珍しいじゃん、こういうのくるっけ?」


関係者っぽい男の人に声をかけられて、エイジ君は挨拶をしている。


パンクイベントでDJしている石井さんって紹介されて、今日もあとで曲をかけるんだとか話している。


「あれ?もしかして新しい彼女?」

そういわれて、なんだかもじもじしながら私のことも紹介してくれた。


「はじめまして~」

なんだかいつものクセでニコッと笑ってしまうと、「可愛いね~」とか言いながら石井さんもニッコリ笑い返してくれる。


すると、エイジ君が急に私の手を取ってぎゅっと握り締めるから、ちょっとびっくりした。


「桃、後ろで見ようぜ・・・」

エイジ君の顔を覗き込むと、なんだか子供みたいにいじけていて、いつもの大人っぽいエイジ君とはなんだか違っていた。

私はそのまま手をひかれて、一番後ろの手すりのある広いスペースに行く。

席に着かずにここで自由に踊るような人も多いみたいで、すでにSEのレゲエの曲が流れていて、それに合わせて楽しげに踊っている人もいた。


私が手すりに寄りかかってステージを見ていると、後ろから私をすっぽり覆い隠すようにエイジ君が立って、私の手の上に手のひらを重ねる。
まるで抱きしめられているみたいで、なんだかドキドキした。


「ねえ、暑くない?」

そんな風に聞くと、「大丈夫」って言いながらずっとステージの方を見ていた。



「ああ、やっぱ無理、何でそんなかっこしてくんの?それとそのTシャツも・・・」

なんかやっぱ怒ってるのかなあ・・・

「これ、エイジ君が選んでくれたんでしょ?似合ってなかったかな?」


不安になって振り向くと、「こっち見ないで」なんていわれる。


なんか意味がわからない・・・




「似合いすぎてて可愛すぎてやばい・・・ 誰にも見せたくないって言うか。」


そんな風に小さい声で言うから、私も恥ずかしくなって振り向けなくなってしまった。




「なにしてんだよ。」

急に声をかけられて2人で振り向くと、蓮があきれた顔をしてこっちを見ていた。



「まあいいけどさ、程々にしてよね。あんまりあれだと、お父さんに言いつけるから。」

そういって笑いながら、蓮は前で見てくるといって行ってしまった。




さあ、ライヴがいよいよ始まる・・・
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