桃色吐息
トップのバンドは、レンのお友だちがメンバーにいて、ついさっき一緒に飲んでいたミヤコさんがトランペットを吹いていた。

女性ボーカルのかわいいスカバンド。

前の方でみんな集まって好きなように踊っている姿が、一番後ろのところから楽しげに見えた。

その後も、スリーピースのシンプルなバンドや、ホーン隊の大勢いるベテランバンドなど、ゆったりした感じから、ハードなものまで、SKAって言っても色んなバンドがあるんだなって思った。

蓮はずっとテンションが高くて、一バンド終わる度に後ろまで来て友達としゃべったり、私たちに絡んできたり、めちゃくちゃ楽しそうだった。

「エイジ君は、踊ったりしないの?」

私たちはずっと後ろの手すりにもたれながら、じっとステージを見ているばかりで、音楽にあわせてちょっと体を揺らしているくらい。


「俺はそんないつも踊ったりしねーもん。」

なんだか楽しそうに笑ってそんな風にいう、なにげに楽しいのかな?

「じゃあライヴ来てみてるだけなの?」


そんなことないけどって言葉を濁しながら、今日はいいんだっていう。


「いつもはさ、小さいライブハウスとかで、ダイブとかしてばっかいるから、こういう広いとこ来ねーし。」


なんか危なそうだなって思ったけど、きっと楽しいんだろうなぁ…




途中でお手洗いに行きたくなってそう伝えると、俺も行くってついてきてくれる。

お互い用を済ませると、じっと入り口の前で待っていてくれて、なんだかずっとそばにいてくれるんだなぁって思った。


さっきの場所に戻ろうと二人で歩いていると、また知らない男の人がエイジ君に声をかけてくる。


「あれ?エイジじゃん、珍しいなこういうとこで会うの。」

さっき石井さんに声をかけてもらった時と同じような対応をみんなするので、なんだか可笑しい。きっと私に付き合って、場違いなとこに来ちゃった感じなのかな?

「リンダは?」

その人はごく自然にそうエイジ君に聞いていて、私が連れだって気づいてないみたい。

「知らねーよ、アイツはこういうとこ来ないだろ。」

明らかに不機嫌になってその人を睨み付けていて、私もちょっとおろおろしてしまった。

「いや、エイジ来てんなら居るのかと思ってさ、わりぃ。」

その人は苦笑いしながら謝って、やっと私の存在に気づいたみたい。


「あれ?その子エイジの連れ?めっちゃかわいいじゃん!」

私もこんにちわーなんて適当に挨拶したんだけど…

「見んなよ、減るだろ…」

訳のわからない屁理屈を言って、また私の手をとってずんずんさっきの場所に戻っていった。



「エイジ君、友達たくさんだね。」

私は色んな人がいて面白いなって思っていったんだけど、なんだかちょっと彼は困ってる感じ。

「まあ、スカもパンクも、ジャンル被ってるからな、同じような面子がいるんだよな…」

さっき言われたことをさらっと聞き流そうとしてるっぽいけど、私はそうはさせない。

この際ちゃんと聞いておこうと思ってしまった。



「で、リンダさんってのが、この前のラフォーレのお姉さん?」

エイジ君は言いたくなさげにやっと「そうだよ」とだけ言って黙ってしまった。






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