桃色吐息
「もう会ってないんだよね?まだ気になる?」

忘れられるわけないんだろうなぁ、一度好きになった人ならきっと。

だって私も、そういいながらもビトのことを度々思い出すもの。



「もう会いには行かないよ…でも…」


どっかで偶然会いそうでなんだか怖いって、たよりなさげに言葉を濁した。



ああ、今までは会いに行っていたんだなと思う。
それが私に変わったってことなのかな?




辺りはだんだん夕暮れになって、西の空が赤く染まって行くのが見える。



「きれいだねぇ、夕焼けって…」

ゆったりとしたトランペットソロの特徴的なスカの音楽が、その風景にぴったりとはまって、すべての世界が美しく見えた…


それがあまりにも綺麗で、こんなに色々なことがある世界でも美しいって、なんだか一筋の涙がこぼれて、こっそりと涙を拭いた。


「夕焼けを見ると、なんだか泣きたくなるな…」

エイジ君もぼんやりとそう言うけど、ずっと後ろにいるから表情までは見えなかった。


彼の手をぎゅっと握りしめたら、そのまま後ろから優しく抱き締めてくれた。


「桃、俺ダメかも、待てないかも…」

だからしばらくこうさせてと、抱き締められたまま、エイジ君は私の肩に顔をすり寄せていた。


「待てないって?」

私はよくわからなくてそう聞いてみると…


「ヤりたい…」

小さい声で私の耳元で囁いた。



急に何言い出すんだと思ってビックリしてさっき聞いていたことなんかどうでもよくなって、一気に顔が火照ってくる、変な汗まで出てくる。



「えっと、やらないって言ったのエイジ君だよね?」

そっと振り向いて顔を見ると、チュっとほほにキスをされて、
「でもしないよ、今日はこれで充電して我慢する…」






それは、あっという間に暗くなっていた夕闇のなかで、誰にも気づかれないような少しだけの二人っきりの時間だった。





”ハッキリさせなくてもいいあやふやなまんまでいい
僕たちはなんとなく幸せになるんだ”



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