君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
5時間目の授業が終わってすぐ

6時間目の授業で使う資料運びを

手伝うことになった、

わたしと桐生くんは

2人で廊下を歩いていた。

わたしは今朝の桐生くんが

気になって思い切って、

話しかけた。

「桐生くん…なにかあったの?」

わたしの突然の問いかけに

桐生くんは珍しく驚いている。

普段から感情が表に出ないから

なにを考えているのか

分からないけど

教室に戻ってきた桐生くんは

いつもの桐生くんじゃない

気がした。

それに…今も…

目を大きく見開いてる。

「いや、特には」

そう言って前に視線を戻して

話す、桐生くん。

視線を合わさず話す桐生くんの

横顔はいつも通りに見える…

けど…

なにかすごい違和感がある。

いつもは安心する横顔が

今日は妙にザワザワして…

落ち着かない。

でもこれ以上は聞けない雰囲気だ。

「そう…それならいいんだけど。

いつもと少し違う気がしたから…

ごめんね、変なこと聞いて」

「いや、別に」

その言葉を最後に

わたし達は一言も喋らなかった。

資料を受け取って教室に向かう、

桐生くんと少し後ろを

歩くわたし。

相変わらずなにも持たせて

くれないところは、同じなのに…

わたし達の間にいつもの会話はない。

口数が元々少ない桐生くんだけど

一言も話さないのは

やっぱり少し変…

朝はこんな沈黙も、

安心できたのに…

なぜか、今の桐生くんは

少し近寄りがたくて。

ピンとした空気が張り詰めてて、

居心地が悪いな。

なにか話題…

あっ!あった!

「今日部活お休みになったんだね。

せっかくの復帰楽しみに

してたんだけどな」

わたしは璃子から聞いた話をした。

すると、桐生くんが突然止まって

そしてゆっくり振り返った。

「それ、誰から聞いた」

そう言った桐生くんの顔は

少しこわばっているように見えた。

「えっと…璃子からだけど。

どうして?」

「いや、なんでもない」

そしてまた歩きだした。

前を歩く桐生くんの背中を

見つめながら

わたしの心はざわついてた…

なんでもないなら、

どうして…

どうして苦しそうな顔してるの?

なにが桐生くんに

そんな顔させてるの?

先を歩く、大きな背中に

わたしはただ、

心の中で問いかけることしか

できなかった。

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