君の背中に見えた輝く翼に、私は恋に落ちました
固く結ばれた心とカラダ
翼くんから、一緒に帰ろうと
言われた時は、飛び上がるほど
嬉しかった。
けど、今日もバイトに行かないと
いけないわたしは、翼くんの誘いを
断ってしまった。
用事があると嘘をついたことに、
罪悪感を感じずにはいられなかった。
翼くんにだけは、嘘を吐いたり
したくなかったけど、
誕生日を素敵なものにしたいと
思う気持ちでいっぱいで、
結局嘘を吐いたのだ。
当分は一緒に帰れないと
言った時の、翼くんの
寂しげな表情が、脳内で
延々とリピートされる。
翼くんにあんな顔させてまで、
嘘を吐く必要があったのかと
思うと、心が折れそうで、
泣きそうになる。
カランカラーン…
「こんにちは…」
「流羽ちゃん、お疲れ様。
ん?どうしたんだい?
そんな顔して…」
溢れ出しそうな涙を
堪えるわたしに、
マスターが優しい声で尋ねてきた。
「…っ…マスター…」
優しすぎる声に、わたしは
溢れる涙を抑えられずに、
今日、翼くんに嘘を吐いたこと…
でも、素敵なお誕生日にしたいから
バイトを頑張りたいこと…
けど、翼くんに寂しい顔をさせて
しまったことを話した。
ひと通り話を聞いてくれた
マスターは、
「そうかー…
大切な人の誕生日にプレゼントを
贈りたくて、バイトする事に
したんだね?
だけど、驚かせたいから
バイトしてることは内緒にしたい…
で、今日一緒に帰ろうと誘って
くれたのを断って来たものの、
断った時の彼の寂しげな表情を
見て、これが本当にいいのか
分からない…」
「…はい」
そうか、そうか…と頭を撫でて
くれるマスター。
わたしのしてる事は、
間違ってるのかな?
翼くんの笑顔を見たくて
始めたバイトだったのに、
それで翼くんに寂しい顔させるのは
果たして良いのかどうか…
分からないよ…
すると、マスターが言った。
「今日でバイトも終わり。
だから、プレゼントを渡す時
びっくりさせたくて、
秘密にしたかったって
正直に話してごらん?」
「正直に?」
そう、と言って笑うマスターに
わたしは頷いた。
そうか…
何もやましい事はしてないんだから
渡す時に全部、ちゃんと
話せばいいんだ…
驚かせたくて秘密にしてたんだって。
「マスター、お話聞いて
下さって、ありがとうございます!
気持ちが軽くなりました」
ここに来た時の罪悪感は
マスターのアドバイスの
お陰で綺麗さっぱり拭えた
わたしは、笑顔でお礼を言った。
「そりゃ良かった。
流羽ちゃんが笑顔になって
くれて、僕も嬉しいよ。
今日でバイトも終わりだし
きっと大丈夫さ!」
ニコっと笑って、そう言って
くれたマスター。
明日、翼くんにバイトのこと
ちゃんと話そう。
そう決めたら、心の
モヤモヤが晴れた気がして、
その後のバイトも意気揚々と
頑張れた。
バイトが終わる頃、
マスターから10日間分の
お給料を貰ったわたしは、
お店に顔を出した隼人さんと
共にお店を出て、
よく行くというお店に
案内して貰うため、隼人さんと
2人で歩いていた。
隼人さんが連れてきてくれた
お店は駅の反対側にある
繁華街の中にある大きなお店だった。
店内にはありとあらゆる
スポーツのアイテムが
所狭しと並んでいて、はぐれたら
迷子になりそうなほど広い。
キョロキョロするわたしを
バスケット用品の売場に
案内してくれた隼人さんは
種類の多さに驚いている
わたしを笑いながらも
このメーカーの物は持ちがいい
などと言って、迷うわたしに
色々と丁寧に教えてくれた。
リストバンドと言っても、
これだけの数が存在するなんて
想像もしていなかった、わたしは
翼くんにピッタリの物を
見つけるべく、吟味に吟味を
重ね、ひとつのリストバンドを
見つけた。
綺麗な青色に黄色の線が
一本入ったリストバンド。
それを手に取ったわたしに、
「決まった?」と声をかけてきた
隼人さんに、笑顔で頷いた。
「はい!これにします!
喜んでくれるといいな…」
初めて翼くんを見たときの
青空に舞う、輝く翼の
イメージにピッタリだ。
あとは、これに翼くんの
名前を刺繍してプレゼントしよう!
喜んでくれるといいな…
綺麗にラッピングしてもらった
袋を抱えて、お店を出た時には
外はすっかり真っ暗で、
見上げると小さな星達が
夜空を彩っていた。
「隼人さん、今日は本当に
ありがとうございました!
素敵なものが見つかりました」
夜空から、隼人さんに
視線を移してお礼を言うわたしを
ジッと見つめている、
隼人さんが何か言おうと
口を開いた時だった…
耳をつんざくような
クラクションの音に
びっくりしたわたしは、
更に驚いて固まってしまった。
それは、隼人さんに
抱き締められていたから…
一瞬何が起きているのか
分からなかったけど、
どうやら隼人さんは勢いよく
通り過ぎた車から、わたしを
守ってくれたみたい。
それにしてもビックリしたー…
わたしを抱き締めたまま、
「大丈夫?」と尋ねられて
わたしはゆっくりと頷いた。
強く抱き締める腕が解かれ、
ホッとしたのも束の間…
助けてくれた隼人さんに
お礼を言おうとした、わたしの
唇に柔らかいものが触れた。
え?
…今の…なに?
一瞬の出来事に
ポカンとするわたしの視界に
顔を赤くした隼人さんがいて
ジッとわたしを見つめていた。
その時初めて気が付いた。
今、わたし…
隼人さんにキスされたんだ…
隼人さんから離れ、わたしは
口元を覆った。
翼くんじゃない人に
キスされた…
キスは好きな人同士がする
ものでしょう?
わたしは、唇に残る
翼くん以外の感触を消して
しまいたくて、必死に拭い続けた。
嫌、嫌、嫌!!
拭い続けた唇がヒリヒリしても
わたしは拭い続けた。
「どうして…こんなこと…
こういう事は…っ…
好きな人とするものです!」
距離を保ったまま、
叫ぶように言うわたしに、
隼人さんは言った。
「春瀬さんのことが…
好きだから…ごめん」
え?
隼人さんがわたしを好き?
でも、だけど…
こんなの間違ってる!
相手の気持ちを無視して
こんな事するなんて。
ひどいです、隼人さん。
じわじわとこみ上げてくる
涙が頬を伝った。
「ごめん!
泣かせるつもりなんて
なかったんだ…
初めて見た時から、ずっと好きで
それで…あの…」
好きになったら、その人のこと
だけしか考えられなくて、
その人の瞳に自分を映して
欲しい…
もっと知りたい、近付きたいと
思ってしまう気持ちを
わたしは知ってる。
だけど、こんなのは
相手のことを考えない
自分勝手な行動だよ…
「だからって、こんなこと…
ひどいです!!
わたしには、
大切な人がいるのに」
お店の前の信号が青に
変わったのを見て、
わたしは走った。
一刻も早く、この場から
隼人さんから逃げたかった。
背中に聞こえる隼人さんの声に
聞こえないフリをして、
横断歩道を渡ろうとした時だった。
行き交う人の中に、わたしを
ジッと見つめる翼くんがいた。
「っ…翼くん…」
地面に縫い付けられたみたいに
動けないでいる、わたしの元へ
一歩一歩近付いてくる翼くん。
ドクドクと嫌な音を立てる
わたしの心臓。
もしかして、今の全部
見られてた?
どうしよう…
怒られるなら、まだいい。
だけど、嫌われたら…
別れようって言われたら?
不可抗力だったとはいえ、
翼くん以外の人とキスした
わたしは、最低じゃない!
こんなわたしと一緒に居たい
なんて、いくら優しい翼くんだって
思うわけない…
横断歩道を渡りきり、
何も言わずに見つめてくる
翼くんを見ていられなくて、
俯いたまま、口を拭い続けた。
そのとき…
わたしの手をそっと握って
胸に抱き寄せた翼くんは
「大丈夫だから…
泣くなよ、流羽。
そんなにしたら、血が出るぞ」
そう言って、優しい瞳で
覗き込んできた。
その瞳は責めるでもなく、
とても穏やかで温かくて、
いつもの大好きな翼くんで。
「っ…ご、ごめ…
ごめんなさいっ」
縋り付いて泣きじゃくる
わたしをギュッと
抱き締めてくれた。
「こんなわたし、嫌じゃない?
嫌いにならない?」
わたしの言葉に、
抱き締める腕を緩めた翼くんは
クスッと笑って、
「嫌いになんてならねーよ。
絶対離れねーって言ったろ?」と
お揃いの指輪を付けた手を
出して見せた。
言われた時は、飛び上がるほど
嬉しかった。
けど、今日もバイトに行かないと
いけないわたしは、翼くんの誘いを
断ってしまった。
用事があると嘘をついたことに、
罪悪感を感じずにはいられなかった。
翼くんにだけは、嘘を吐いたり
したくなかったけど、
誕生日を素敵なものにしたいと
思う気持ちでいっぱいで、
結局嘘を吐いたのだ。
当分は一緒に帰れないと
言った時の、翼くんの
寂しげな表情が、脳内で
延々とリピートされる。
翼くんにあんな顔させてまで、
嘘を吐く必要があったのかと
思うと、心が折れそうで、
泣きそうになる。
カランカラーン…
「こんにちは…」
「流羽ちゃん、お疲れ様。
ん?どうしたんだい?
そんな顔して…」
溢れ出しそうな涙を
堪えるわたしに、
マスターが優しい声で尋ねてきた。
「…っ…マスター…」
優しすぎる声に、わたしは
溢れる涙を抑えられずに、
今日、翼くんに嘘を吐いたこと…
でも、素敵なお誕生日にしたいから
バイトを頑張りたいこと…
けど、翼くんに寂しい顔をさせて
しまったことを話した。
ひと通り話を聞いてくれた
マスターは、
「そうかー…
大切な人の誕生日にプレゼントを
贈りたくて、バイトする事に
したんだね?
だけど、驚かせたいから
バイトしてることは内緒にしたい…
で、今日一緒に帰ろうと誘って
くれたのを断って来たものの、
断った時の彼の寂しげな表情を
見て、これが本当にいいのか
分からない…」
「…はい」
そうか、そうか…と頭を撫でて
くれるマスター。
わたしのしてる事は、
間違ってるのかな?
翼くんの笑顔を見たくて
始めたバイトだったのに、
それで翼くんに寂しい顔させるのは
果たして良いのかどうか…
分からないよ…
すると、マスターが言った。
「今日でバイトも終わり。
だから、プレゼントを渡す時
びっくりさせたくて、
秘密にしたかったって
正直に話してごらん?」
「正直に?」
そう、と言って笑うマスターに
わたしは頷いた。
そうか…
何もやましい事はしてないんだから
渡す時に全部、ちゃんと
話せばいいんだ…
驚かせたくて秘密にしてたんだって。
「マスター、お話聞いて
下さって、ありがとうございます!
気持ちが軽くなりました」
ここに来た時の罪悪感は
マスターのアドバイスの
お陰で綺麗さっぱり拭えた
わたしは、笑顔でお礼を言った。
「そりゃ良かった。
流羽ちゃんが笑顔になって
くれて、僕も嬉しいよ。
今日でバイトも終わりだし
きっと大丈夫さ!」
ニコっと笑って、そう言って
くれたマスター。
明日、翼くんにバイトのこと
ちゃんと話そう。
そう決めたら、心の
モヤモヤが晴れた気がして、
その後のバイトも意気揚々と
頑張れた。
バイトが終わる頃、
マスターから10日間分の
お給料を貰ったわたしは、
お店に顔を出した隼人さんと
共にお店を出て、
よく行くというお店に
案内して貰うため、隼人さんと
2人で歩いていた。
隼人さんが連れてきてくれた
お店は駅の反対側にある
繁華街の中にある大きなお店だった。
店内にはありとあらゆる
スポーツのアイテムが
所狭しと並んでいて、はぐれたら
迷子になりそうなほど広い。
キョロキョロするわたしを
バスケット用品の売場に
案内してくれた隼人さんは
種類の多さに驚いている
わたしを笑いながらも
このメーカーの物は持ちがいい
などと言って、迷うわたしに
色々と丁寧に教えてくれた。
リストバンドと言っても、
これだけの数が存在するなんて
想像もしていなかった、わたしは
翼くんにピッタリの物を
見つけるべく、吟味に吟味を
重ね、ひとつのリストバンドを
見つけた。
綺麗な青色に黄色の線が
一本入ったリストバンド。
それを手に取ったわたしに、
「決まった?」と声をかけてきた
隼人さんに、笑顔で頷いた。
「はい!これにします!
喜んでくれるといいな…」
初めて翼くんを見たときの
青空に舞う、輝く翼の
イメージにピッタリだ。
あとは、これに翼くんの
名前を刺繍してプレゼントしよう!
喜んでくれるといいな…
綺麗にラッピングしてもらった
袋を抱えて、お店を出た時には
外はすっかり真っ暗で、
見上げると小さな星達が
夜空を彩っていた。
「隼人さん、今日は本当に
ありがとうございました!
素敵なものが見つかりました」
夜空から、隼人さんに
視線を移してお礼を言うわたしを
ジッと見つめている、
隼人さんが何か言おうと
口を開いた時だった…
耳をつんざくような
クラクションの音に
びっくりしたわたしは、
更に驚いて固まってしまった。
それは、隼人さんに
抱き締められていたから…
一瞬何が起きているのか
分からなかったけど、
どうやら隼人さんは勢いよく
通り過ぎた車から、わたしを
守ってくれたみたい。
それにしてもビックリしたー…
わたしを抱き締めたまま、
「大丈夫?」と尋ねられて
わたしはゆっくりと頷いた。
強く抱き締める腕が解かれ、
ホッとしたのも束の間…
助けてくれた隼人さんに
お礼を言おうとした、わたしの
唇に柔らかいものが触れた。
え?
…今の…なに?
一瞬の出来事に
ポカンとするわたしの視界に
顔を赤くした隼人さんがいて
ジッとわたしを見つめていた。
その時初めて気が付いた。
今、わたし…
隼人さんにキスされたんだ…
隼人さんから離れ、わたしは
口元を覆った。
翼くんじゃない人に
キスされた…
キスは好きな人同士がする
ものでしょう?
わたしは、唇に残る
翼くん以外の感触を消して
しまいたくて、必死に拭い続けた。
嫌、嫌、嫌!!
拭い続けた唇がヒリヒリしても
わたしは拭い続けた。
「どうして…こんなこと…
こういう事は…っ…
好きな人とするものです!」
距離を保ったまま、
叫ぶように言うわたしに、
隼人さんは言った。
「春瀬さんのことが…
好きだから…ごめん」
え?
隼人さんがわたしを好き?
でも、だけど…
こんなの間違ってる!
相手の気持ちを無視して
こんな事するなんて。
ひどいです、隼人さん。
じわじわとこみ上げてくる
涙が頬を伝った。
「ごめん!
泣かせるつもりなんて
なかったんだ…
初めて見た時から、ずっと好きで
それで…あの…」
好きになったら、その人のこと
だけしか考えられなくて、
その人の瞳に自分を映して
欲しい…
もっと知りたい、近付きたいと
思ってしまう気持ちを
わたしは知ってる。
だけど、こんなのは
相手のことを考えない
自分勝手な行動だよ…
「だからって、こんなこと…
ひどいです!!
わたしには、
大切な人がいるのに」
お店の前の信号が青に
変わったのを見て、
わたしは走った。
一刻も早く、この場から
隼人さんから逃げたかった。
背中に聞こえる隼人さんの声に
聞こえないフリをして、
横断歩道を渡ろうとした時だった。
行き交う人の中に、わたしを
ジッと見つめる翼くんがいた。
「っ…翼くん…」
地面に縫い付けられたみたいに
動けないでいる、わたしの元へ
一歩一歩近付いてくる翼くん。
ドクドクと嫌な音を立てる
わたしの心臓。
もしかして、今の全部
見られてた?
どうしよう…
怒られるなら、まだいい。
だけど、嫌われたら…
別れようって言われたら?
不可抗力だったとはいえ、
翼くん以外の人とキスした
わたしは、最低じゃない!
こんなわたしと一緒に居たい
なんて、いくら優しい翼くんだって
思うわけない…
横断歩道を渡りきり、
何も言わずに見つめてくる
翼くんを見ていられなくて、
俯いたまま、口を拭い続けた。
そのとき…
わたしの手をそっと握って
胸に抱き寄せた翼くんは
「大丈夫だから…
泣くなよ、流羽。
そんなにしたら、血が出るぞ」
そう言って、優しい瞳で
覗き込んできた。
その瞳は責めるでもなく、
とても穏やかで温かくて、
いつもの大好きな翼くんで。
「っ…ご、ごめ…
ごめんなさいっ」
縋り付いて泣きじゃくる
わたしをギュッと
抱き締めてくれた。
「こんなわたし、嫌じゃない?
嫌いにならない?」
わたしの言葉に、
抱き締める腕を緩めた翼くんは
クスッと笑って、
「嫌いになんてならねーよ。
絶対離れねーって言ったろ?」と
お揃いの指輪を付けた手を
出して見せた。