記憶を失くした少女【完】
「そういえば、午前中いなかったようだな」
今日はいつも通り遥輝が送ってくれることになり、帰り道そんな話になった。
「………ちょっとね」
話すことでもないな~……なんて思ったけど、遥輝は気になってる様子。仲間の行動は知っておきたいタイプなのかな?
「大平もいなかったようだが、一緒にいたのか?」
………………………まぁ同じクラスで同じRYUSEIの人が2人だけいなくなったら、そう思うよね。
「いたよ。2人で屋上にいたの」
別に嘘じゃないし、隠していた訳でもないからいっか。
流石に大平くんのあの内容はプライバシーに関わることだから言えないけどさ。
その言葉に一瞬安心したようだったけど、何かが気にくわなかったのか急に黙りこんだ。
っていっても、元々そこまでペラペラ喋るような人ではなかったんだけど。
大平くんはペラペラ喋るタイプで楽しかったけど、こっちはこっちで、気持ちが落ち着くんだよなぁ~………。
バイクを運転する遥輝の赤髪が、暗くなった建物のライトなどにあてられ、波打つようにキラキラと輝いて見える。
最初は中々慣れなかったバイクの速度も、あの暖かな空間も今じゃ慣れてきだして……………1人だった日が随分と過去のような感覚になる。
一部の記憶を思い出せたのは、今日の昼休みが初めてで、それ以外は未だに思い出せる感じもしない。
恐らく私は下に妹がいて、妹の名前を羨ましがっていた。
そして、お母さんとは何かあったに違いない…………………けど、『お母さん』と呼ぶ声が何だか切なく聞こえたのは何でだろう。
思い出せたようで、肝心なところが思い出せず心がモヤモヤする。
それに、大平くんが話してたあの内容で1つ気になるとこがあった。
それは、"旭川"と呼ばれるその仲間。
どこかで私はその名前を聞いたことがある。
しかも、結構最近のような気もする……………………。