記憶を失くした少女【完】
Season3
綺羅の決意とさよなら
【side綺羅】
____コト………。
「いつものでいいか?」
凌馬さんのお店に着くと、いつもの飲み物を私に出してくれた。
休店しており、お客さんのいないお店は無駄にシーンとしてみえた。
気を使って飲み物を出してくれたっぽいけど、この状況で飲み物なんか喉を通るわけない。
「凌馬~!俺コーヒーな」
「はいはい」
取りあえず、2人にお礼を言わなきゃ…………………。
「あのね…………………」
空気が重い。
でも、言わないと。
「………………………助けに来てくれてありがとう」
助かった事実は変わらない。
きっと、スゴく2人には心配をかけた。
「…………………あぁ。取りあえずこれ返しとくな」
隣に座ってコーヒーをすする旭川さんは、私にキーホルダーを渡した。
それは、学校用のカバンについていた物だった。
「……あ。いつ取れたんだろう?」
「路地裏に行く通りの入り口に落ちてたぜ。まぁ、これで状況を判断できたし、俺としては助かったけどな」
落ちていた場所とその持ち主だけで、あの状況を導き出すなんて……………………旭川さんすごい。
「それよりも、綺羅ちゃんはRYUSEIの姫だったんだな」
そう言う旭川さんも、まさかの事実に驚いている様子。
隠すつもりはなかったんだけど、何となく言えてなかったんだよね。
「…………………うん。大切な友達であり、仲間なの。記憶を失った私を初めて信じ、輪に入れてくれた人たちだった。毎日がとても楽しくて充実していたわ」
あの頃の私は周りに怯え、ただ下を見て過ごしていたから、その時間が何よりも大切なものだったって今ながら分かる。
……………………でも、裏切ることになってしまった。
私はみんなが思うように綺麗じゃない。
例えみんなが私を受け入れたとしても、私が自分を受け入れきれない。
「今の生活が綺羅ちゃんにとってはとても大切なものだ。転校なんてさせるべきではない」
旭川さんは私の気持ちを考慮して、凌馬さんの言葉に反対している。
正直、そうして頂けたのは嬉しかった。
「綺羅ちゃんからも何か言えよ!このままじゃ転校させられるぞ!?コイツ親ばか見てぇなとこあるから!!」
でも、
「……………旭川さん。私は凌馬さんの言った通り転校しようと思うの」
「はぁぁぁあ!??正気か!!?」
みんなと離れる分けだし、寂しくないと言ったら嘘になる。
でも、今あの場所に私が戻るべきじゃないと思うの。
私の居場所はそこじゃなかった。
居場所だと思っていたのは誰かのもので、ずっと誰かのものを奪ってただけなのもしれない。