記憶を失くした少女【完】
取りあえず最初はいつも通り保健室で待機で、あとで担任の先生が迎えに来てくれるらしい。
あ、担任の先生は村田(むらた)って言う男の先生なんだけど、私が保健室登校のとき、たまに顔を出してくれた先生なんだ。
会うのが初めてではないから、先生自体にはそこまで緊張しないけど。
教室に入るのはやっぱり緊張する……………!!
____コンコンコンッ。
うわ!きたっ!!!
「山田の担任、村田です」
ドアの前でそう言うと、中へ入ってきた。
「そろそろ行きましょうか」
先生はそりゃあ、いつも通り………………。教室に行くのは初めてじゃないもんね……(笑)
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ(笑)たかが、教室に戻るぐらいなんだから」
先生はそう言って面白おかしく笑うけど、本当に緊張してるんだから!
騒がしい声が廊下まで聞こえてくる教室のドアの前で、足が止まる。
ドアの上にある札には、2年B組の文字が書かれており、私は先生についていくように中へ入っていった。
先生が来ても、変わらずに騒がしい教室内。
私を見かけると更に騒がしくなった。
「先生、その子誰ー?」
「転校生?」
「うちらとは違うジャンルじゃん(笑)」
机の上に鏡やメイク道具を散乱させた、ギャル達が先生に話しかける。
そんな声で教卓に目さえ向けていなかった生徒たちが前を向く。
「あ、本当だ」
「女じゃ~ん!!ラッキー」
「お前らとは正反対だな(笑)」
この学校が不良校だとは知っていたけど………………こうやって教卓のとこに立って見てみると、ほとんど全員派手な人たちばかり。
黒髪なんて一人もいない。
「休学していた山田さんだ」
先生のその言葉であれほど騒がしかった教室が静かになる。
ここはあえて騒がしくしててほしかったな。
「……………え、山田って………え?」
「休学してるって言ったらさぁ~、あの席の山田綺羅じゃね?」
「あ~、アイツ?でも、見た目違うじゃん」
やはり、この見た目じゃ前の私とは思われにくいらしい。
というか、噂広がっていない感じ?
蘇芳遥輝は誰にも言っていないのかも。
「………や、山田綺羅です!事情があって休学していました。またよろしくお願いします!!」
最初が肝心だと言うし、取りあえず元気よく丁寧に言ってみる。
当然周りの人はいきなりのことでポカン………とした感じ。
「あ、そうだ山田。あのことも言って大丈夫か?」
あのことって、記憶喪失のことだよね?
「別にいいですよ」
後で聞かれるより、この場で先生に言ってもらったほうが、説得力もあるよね。
私だと、前の私がチラついて、嘘だと思われそうだし。
「山田さんは記憶喪失で、皆の事を覚えていないが、仲良くしてやってくれ」
「記憶喪失?」
「マジか(笑)」
「嘘なんじゃねーの?(笑)」
再びざわつく教室。
やはり、そう簡単にはいかないらしい。