カッコよくても、いいですか?
そう言うや否や、私は胸に軽い打撃を受けて、思わずよろめいた。


一体何が、と胸元を見下ろすと、私より頭一個分身長が低い女子が私を見上げていた。


名札の色が違うから、どうやら年下のようだ。


髪を高い位置で二つに結っているその女子は「ご、ごめんなさい!前見てなくって…!」と慌てている。


「いや悪い、私も前を見ていなかった」


私はそう言ってその場を去ろうとすると、隣にいた友達らしき女子がぶつかった女子に「待って、この人って生野つばさ先輩じゃない!?」と小さな高い声で伝える。


思わず踏み出そうとしていた足が止まる。


ぶつかった女子はもう一度私の顔を見ると、「えっ嘘っ!?ホンモノ!?」と顔を赤らめた。


二人は「待ってヤバイまじでカッコイイね」「どうしよう初めて生で見たかも」と手を繋いではしゃいでいる。


「あの!私、生野先輩のテニスをする姿見て、テニス部に入ったんです!」
「私もです!あの、握手してもらってもいいですか!」


「ああ構わないが」


私はうっすら微笑んで手を差し出した。早く購買に行きたかったからだ。


二人は私の手をぎゅっと握った後、きゃあきゃあと甲高い声をあげながら、「ありがとうございます!」と私達の進行方向とは逆の方向に走っていった。


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