カッコよくても、いいですか?
あっという間に昼の時間も終わり、気づいたら本令も鳴り終わっていた。


レタスを掻き込み、階段を飛ばしに飛ばして教室に滑り込む。


「あ、やっと来た。イケメン」


クラスの一人の女子が座ったままこちらを振り返って声を上げると、皆一斉にこちらを向く。


「遅いぞイケメン」


「おかえりーイケメン」


「遅刻だよイケメン」


四方八方から聞こえる「イケメン」と言う声。


「なぁ、イケメンイケメンって止めてくれないか?」


私は走ったせいで乱れた髪を掻き揚げた。


私も女だ。あまりにも「イケメン」とばかり言われていると、なんだか気持ち悪い。


まだクラスメイトはうるさいが、それ以上は何も言わずに黙って席に着く。


「困ってる顔もカッコイイッスね」


ふと後方から声。


振り向くと、茶髪のクラスメイトの男。


「あ、そろそろ俺の名前覚えてくれた?」


その質問は昨日も一昨日もされた。


誰だっけ、牛田?若田?町田?


実は私の苦手な事は人の名前を覚える事だ。


杏の名前を覚えるのも5ヶ月はかかった。


「…石田」


私は少し考えた末答えたが、仮石田はぶはっと吹き出して、整った顔を歪ませた。


「いや、石田って誰だよw俺は赤松!赤松空!昨日は確か緑山とか言ってたよな」


赤松は肩を震わせて笑っている。


「何がそんなに面白いのさ。人の不得意な事ばっかり聞いてきて…てかほら、先生アンタの事見てる」


私は何も無かったかのように姿勢をただしてノートを広げる。


「赤松、問一を答えなさい」


先生に指名された赤松は「うわ、まじか」と教科書を見て顔を歪めた。


「俺分かんねぇ。生野さん分かる?」


急に問いかけられて、私は慌てて教科書を見て問題を解く。


「…多分5x+√12」


出た答えを赤松に伝えると、赤松は勝ち誇ったような表情で立ち上がると、私の答えを言った。


「正解だ。珍しいな、赤松。勉強したのか?」


先生は満足そうに赤松を見て頷いている。


赤松は満面の笑顔のまま座ると、私の方を向き、目元を細めた。


「さんきゅーな」


私は小さく頷いて、直ぐにノートに目線を移した。


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