カッコよくても、いいですか?
何時間くらい経ったのだろう。


次に保健室の天井を見た時には、もうすっかり夕方だった。


寝起きのせいか、重い頭を右に傾けて、奥の壁に掛かっている丸時計に目をやる。


「…5時」


確かここに来たときは2時過ぎだったから、3時間近く眠っていたみたいだ。


「…早く帰らなきゃ」


慌てて上半身を起こして、やっと気が付いた。


「…掛け布団」


覚えている記憶が正しいのなら、私はベッドにダイブして、そのまま寝落ちしてしまったはず。


誰かが掛けてくれたのだろうか。


保健室を見渡して先生を探すが、その姿はどこにも見当たらない。


もう帰ってしまったのだろうか。


焦って布団から出ようとしたまさにその時。


勢い良く開いた扉がガンッと音を立てた。


開いた扉から入ってきたのは…


先生でもなく、杏でもなく、赤松だった。


「あ」

赤松は私の姿を見つけると、一目散に駆け寄ってきた。


「生野さん大丈夫?まだ気持ち悪い?」


優しい声で問いかける赤松。


窓の外の夕焼けの光を受けて彼の髪が白く輝く。


「もう大丈夫。寝ていたらすぐに良くなった」


少し広角を上げて答えると、赤松はほっとした表情になる。


「良かった。実はさっきまでここで生野さんの事見てたんだけど、ちょっと先生に呼び出されちゃって」


さっきまでここにいた?と言うことは…


「掛け布団、掛けてくれたのも、アンタ?」


「そのとおり!」


赤松は自慢気にこちらを見ている。その顔は幼い子どものようだ。


「ありがとう。おかげでもうすっかり元気だ」


私は赤松を見上げて微笑んだ。


赤松も微笑み返すと、私の隣に座った。


ぎし、とベッドが鳴る。


「でもさ、体調不良だなんて珍しい。なんかあった?」


私の顔をのぞき込んで問いかける赤松。


「あー…それが」


私は眉間にシワを寄せ、もうすぐ大会の事、朝飯を抜いたこと、昼にサラダを食べたことを話した。


それを話すや否や、赤松は教室の時と同じようにぶはっと吹き出した。


「そんな理由で体調崩すなんてwプレーヤー失格じゃね?w」


どこかで聞いたことのあるセリフ。


赤松はお腹を抱えて大笑いしている。


笑いまじりに言われて思わずカッとなる。


「う、うるさい!笑うな!」


私は無意識に赤松の胸を勢い良く押して、ベッドに倒していた。


再びギシ、となるベッド。


ハッと我に返り、赤松を起こそうと、赤松の肩を掴んだ。


はずなのだが。


「わっ!?」


大きな力で引き寄せられ、ベッドに体が叩きつけられた。


気がついたら、私がベッドに寝ていて、その上にまたがる様に赤松が私の両肩に手を置いている。


ん?あれ?


私、押し倒された?


私の上にまたがっている赤松の顔色をうかがう。


「な、なぁ、さっきは悪かったって…。怒ってる?」


「…あぁ。すっげぇ怒ってる」


そう言い放った赤松の額に一本のシワが入るのが見えた。


「だから、悪かったって。頼むから離せ…」


「無理」


赤松は私の頭をがしっと掴む。


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