異世界賢者は世界を弄ぶ
上陸後の謎
島に入ってまず、港近くなのに何もないのがおかしい。
ひっそりと稔憲が「検索を施せば、あるのは小さな集落のみ。コレなら稔憲が作った町の方が大きいくらいだ。
その集落にある豪華絢爛な建物。おそらくこれが城であり、王の住処だろう。そして、島のいたるところにいる「凶暴化」を施した魔獣。
そこまでくれば、大体の想像はつく。
「……厄介だぞ、これは」
「ん。凶暴化したくらいなら、俺が何とかするけど」
あっさりと隆文が言ってくれるが、そういう問題でもない。おそらく、城側でわざと凶暴化させているのだ。そしてこれが「魔王の所業」であり、小さな集落しかないのは「魔獣や魔王によって滅ぼされた」ことにしたいというのがありありと分かる。
「トニー、考え過ぎると禿げる。城に行きつくのが一番なら、適当に魔獣を殺せばいい。それを手土産に城に行けばよくね?」
「……そうしたいのは山々だが、凶暴化している魔獣の一部に下位とはいえ神々の眷属までいる。それをどうするかが問題なんだ」
「それ教えてくれれば、俺は討伐しない。それ以外を討伐していけば問題ない」
その瞬間、擦り寄ってきた冥界神の眷属。これは気配遮断も出来る中位眷属だ。
『我が眷属で凶暴化されたのは適当に間引いてよろしい』
「……」
冥界神の声が響いてきて、さすがの二人も言葉を失った。「その方が相手に信用されるであろ?」というあたり、しっかり分かっていらっしゃる。他の神々の眷属は、この魔獣がさり気なく別場所に移動してくれる……らしい。
「さていくか」
思考の切り替えが終わった二人は、心置きなく討伐に励んだ。
集落にはあっさりと到達した。こんなに弱くていいのか、と思わなくもないが、あえて口に出すことはない。インドアな稔憲が二撃ほど与えると消滅する程度とはこれ如何に? そう思いつつも、稔憲と隆文は魔獣を解体してく。肉と皮革、そして魔石に分類しておくだけで買い取りは高くなる。まぁ、もっとも魔石と皮革は献上する予定ではあるが。
宿屋で一泊してから王城に行こうかと思ったが、それすらもない。……人が訪れないのだから当然といえば当然なのだが。
「召喚された奴ら、洗脳されていないことを祈るしかないな」
「それな」
これをおかしくないと思う人間は少ないはずだ。多少の精神支配ならば、弟子の一人があっさりと解除できるはずだが、入り組んだものになると面倒だ。
そんなわけで、わざとらしく「宿屋」を探しつつ、城へ行く方法をさり気なく探ることにした二人だった。
これまたあっさりと引っかかるとは思わず、相手がどこまでも馬鹿なのか、それともわざとなのか苦しむ羽目になった。