異世界賢者は世界を弄ぶ

傍迷惑な勇者召喚


 遅い! と怒鳴る時の女神を視線で威圧して、稔憲は最高神のところへ向かった。
「すまぬな」
「そう思うなら、ある程度はご自身たちで解決しては?」
「我らはヒトより長生きなだけの木偶の坊ゆえに」
 言っちまいやがったよ、こいつ。稔憲は思わずため息をついた。現在五代目の最高神は、無能ではない。……が、有能というわけでもない。前世の頃より地上で何かあると稔憲に相談することもあった。
「で、今回は?」
「どこぞの新興国が勇者召喚の儀をおこなって時空が歪みまくっておる」
「直せよ」
「勇者召喚の儀に介入した故、時間がかかったがとりあえず問題はない」
「……その問題を見てこいと?」
「そちらは我らの眷属で何とかしておる。……問題は」
「召喚された奴ってこと?」
 隆文が会話に入ってきた。

 勇者召喚の儀というが、時空を正しく(、、、)捻じ曲げられるなら、さして問題はない。最たる例が稔憲の管理する移転門だ。隆文曰く「ある意味青色ネコのどこでも〇ア」とのこと。
「捻じ曲げがうまくいかなかったか」
「稔憲、多分それだけじゃない」
 ネットで色々な小説を読むという隆文は今回の問題点が分かったようだ。
「稔憲は検証を重ねて行き来できる『移転門』を作った。だけど、誰しもができるわけじゃない。ヘブンズへの一方通行の場合だってあるし、時空というからには、どの時間軸から呼び寄せられるか分からないんだ」
「……そんな不完全なものを起動させる理由が分からん」
「稔憲はそうだよね……。あとは、勇者召喚で、当たりを引くために大量に召喚するって話もあるし、召喚された人間か必ずしもこちらの世界になじむとは限らない」
「馴染まない可能性の方が高いな」
 地球に馴染めなかった代表である。
「うん。あと昔の俺みたいだとすると、誰も信じないからやりたい放題」
「……色々と問題があるものだな」
「あとは小説に影響されて、無理やり『ハーレムパーティ』を作ろうとする馬鹿も考慮しなきゃいけない」
「……隆文殿も一緒に来ていただいて助かりました。問題点の洗い出しご苦労様です」
 げっそりとした地母神がいつの間にか来ていた。

「そこまで問題点があるとは思いもよりませんでした。ただ、今回召喚されたのは一人です」
 一応地母神の加護を与えて来たという。
「わたくし共が頼りたいのは、冥界神を倒すというのを止めていただくことです」
「あーー、テンプレ乙」
「てんぷれ?」
 神々がキョトンとした顔をした。
「多分、召喚した国は『我が国は魔王と魔族の脅威に脅かされている。それを打破できるのは、異世界から召喚した勇者だけだ。それゆえ勇者召喚の儀をおこなった。勇者殿には魔王を倒していただきたい』に近いことを言ったんだと思ったんだ」
「……そ、その通りです」

 テンプレとは、元は「テンプレート」といい、「雛形(ひながた)」を意味する英単語だった。同じものを複製するときに利用される道具をさしていたが、アニメや小説では「ありきたりな登場人物の特徴づけ」に転じている。

 つまり、小説や漫画ではよくある「出だし」ともいえた。
「で?」
 そういったものに詳しくない稔憲は、隆文の次の言葉を待った。
「おそらく勇者召喚された人、……面倒なんで勇者で。勇者は元の世界に戻れるかって聞いたんじゃないかな。で、その国の重鎮は『魔王を倒せば方法が分かるやもしれぬ』とか言ったんじゃない?」
「隆文殿はその場を見られたのですか!?」
 確か二日前までこちらに……と言った地母神を稔憲がねめつけた。
「違います。それがテンプレだからです。大当たりかぁ……。勇者もテンプレじゃなきゃいいけど」
「テンプレだと問題があるのか?」
「最近だと、そのテンプレを逆手にとって『あ、戻れないんだ。だったらこっちを魔改造したやる』とか、『こっちの都合で呼ばれたんだから、好き勝手してやる』ってやつも多いんだよ」
 そのせいでパワーバランスが崩れるくらいならまだいいと、隆文はのたまった。

 慌てたのは神々だ。
「あちらのカガクを持ってこられたら大変だ! 精霊が滅びる!!」
 どうやら別の意味での事の重大さを初めて知ったらしい。
「分かった。その勇者を元の世界に戻せばいいのだな」
「どの時代、どの世界の人だとか分からないと出来ないでしょ」
 稔憲の決意に隆文が水を差した。隆文の言いたいことは分かる。……が。
「数年単位で研究すれば何とかなる。それまではマンションで匿うしかなかろう」
「……うわぁ。断言したよ」
 やって出来なくない。魔術は大得意だし、基礎は移転門で出来ている。理解できるのが稔憲だけという話だ。
「時代と世界は問題ない。何のために我々が介入したと」
「……あ。そういうこと」
 最高神の言葉で、隆文が気づいた。
「稔憲、悪いけど新しい研究は要らない。多分俺らと同じ時代の地球人だ」
「ちっ」
 これにかこつけて、研究三昧の日々を送りたかったのに。
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