異世界賢者は世界を弄ぶ
人事権はどこにもない
基本、地上の者たちは天界や冥界に関わることはできない。例外として、妖精による「とりかえっ子」だ。
地球のとりかえっ子伝説は、妖精が人間の赤子と妖精の赤子を入れ替えるが、ヘブンズは違う。妖精がとりかえるのは地上と天界、もしくは冥界に産まれる予定の赤子だ。
とりかえられた子供は、生まれながらにして地上以外から神託を受け取れる。そのため重宝がられ、神殿や王侯貴族に手厚く保護される。そして、魔力も高く寿命も長いことから、魔術師として大成することもある。
それ以外で、関わることが出来ないため、天界人事に口出しは出来ない。
「あれ? 稔憲はしょっちゅう……」
「私は例外中の例外だな。伊達に千年も生きていないということだよ。そんな私でも人事には口出しできない」
そう言って言葉を濁す。
「……あっそ。ま、出来ないなら仕方ねぇな」
そのまま台所に向かう隆文に、稔憲はついていく。まず最初に魔石に魔力を通しておかないと、隆文は使えないのだ。
「はい、これで一週間くらいは使えるはずだ」
「サンキュ。で、今日の飯は何がいい?」
「こちらの芋を使ったニョッキかな。インベントリ用に弁当をそれなりに。おにぎり弁当とサンドイッチ弁当は同数で」
「ん。だとフル回転だ。フラウさんのところから何人か手伝い頼んでもらえる?」
「フラウが喜ぶね」
手伝えば、隆文作のご飯が食べられる。これはご褒美以外何ものでもない。
料理の指示をする隆文を眺めつつ、稔憲は天界・冥界から渡された羊皮紙に目を通していく。
召喚されたという地球人をどのように助けるか。あまり酷い場合にはいっそのこと冥界の炎で焼いてもらおうか、そんなことを考えていた。