本日、結婚いたしましたが、偽装です。
「たまきって、前川 たまきだよね?私の友達の」
怖くて、確かめたくないのに、やっくんに蚊の鳴くような声で訊くと、やっくんは頷いた。
「うん、深雪の友達のたまきちゃん」
胸が張り裂けるくらい、息が出来ないくらい、哀しくて、それと同時に、よりによって私の一番の友達がやっくんの相手なのか、信じられなかった。
本当に、たまきなの? なんで、たまきなの?
いつから?たまきのどこを好きになったの?
たまきは、私とやっくんが婚約中だっていうことを知っているよね?
なんで? どうして?
聞きたいことも言いたいことも、沢山あるのに哀しみと絶望で、喉が痛いほどつっかえて
何も言えない。
視界がぐらりと何度も大きく揺れて、頭は真っ白で、目の前にいるやっくんが遠く感じる。
前川 たまきは、同い年の私の幼稚園の頃からの幼馴染で、小学、中学校は一緒だった。
けれど、高校と大学は、頭脳明晰で優秀なたまきはエスカレーター式の県内一を争うくらいの進学校に行って、そこまで頭の良くない私はごくごく普通の県立高校と三流大学に行って、学力もなにもかも、雲泥の差が出来て離れてしまった。
頭脳明晰に加えて、美人で、ハキハキと言いたいことを言うけれど人は傷付けなくて、しっかりと自分を持った、同性からも異性からも憧れられて人気のある、たまき。
まさに、二物だけではなく三物も四物も天から与えられた彼女を羨ましくもあった。
だけど、小さい時から弱視で眼鏡っ子で、地味子とからかわれていて、いじめられていて私と誰も友達になろうとしなかったのに、たまきだけは、いじめられる私を庇ってくれて、地味じゃない、深雪の可愛いところは私が知っているから、絶対に深雪は地味じゃないって、言ってくれた。
それから二十年近く大親友になってくれて、嬉しくて、私もたまきに守られてばかりじゃダメだと、たまきみたいにはっきりとした性格になろうと、憧れるようになった。
私が男だったら、結婚したいと思えるくらい、たまきは、私の良き相談相手で理解者で、
憧れの存在で、大好きな親友だった。
腹を割ってなんでも話せる友達と呼べる人はたまきしか居なかったのに、私の大好きな彼氏が好きになった相手だなんて。