血も涙もない。
虎だ!
僕は仰天して、スニーカーを握りしめたまま、びょんと飛びのいた。
黄金色の巨体が、低く背をかがめて僕に一歩、近づく。
身体じゅうから、筋肉が盛り上がっている。飼っていた猫は、触るとふわふわして気持ちよかったが、虎は皮膚と皮だけで、その硬さは触らなくても分かる。牙が、薄暗くなった中で、白く光る。
らんらんとした眼が、こっちを見ている。
顔は動かさずに、身体だけで僕に近づく。
僕は、その眼から視線をそらせない。
視線が外れた瞬間、虎は口をかぱっと開いて僕に飛びつく。その牙は、情け容赦なく僕の身体に食い込む。
眼。
眼。
眼。
虎も、隙を見せない。
僕も、隙を見せない。
見せられない。
虎が僕を見つめる。
僕が虎を睨む。
見せびらかすように、牙と、赤い舌をぺろぺろする。
背筋が冷たい。
手は痺れて、感覚がない。
僕は、昔見たドキュメンタリー番組を思い出した。どんな内容だったか忘れたが、サバンナで虎がシマウマを追いかけてその首に食らいつき、がぶりともう一頭の虎がシマウマのお尻にかぶりつくというシーンを覚えている。シマウマはまだ生きていて、苦しそうな声を漏らすが、仲間のもとには届かない。生きたまま、憐れなシマウマは虎の晩餐になってしまうのだ。—————
まさか、僕も?
頚動脈が切り裂かれる。血が噴き出す。助けを求めて声を上げるが、ひゅーひゅーという音しかしない。脳は、まだ痛みを知覚するには十分機能していて、僕は足を食いちぎられるのを感じる。虎の牙が腹部に突き立てられ、内臓が破裂し、脳で血液が循環しなくなって初めて、僕の意識は身体から離れる。…………
僕は仰天して、スニーカーを握りしめたまま、びょんと飛びのいた。
黄金色の巨体が、低く背をかがめて僕に一歩、近づく。
身体じゅうから、筋肉が盛り上がっている。飼っていた猫は、触るとふわふわして気持ちよかったが、虎は皮膚と皮だけで、その硬さは触らなくても分かる。牙が、薄暗くなった中で、白く光る。
らんらんとした眼が、こっちを見ている。
顔は動かさずに、身体だけで僕に近づく。
僕は、その眼から視線をそらせない。
視線が外れた瞬間、虎は口をかぱっと開いて僕に飛びつく。その牙は、情け容赦なく僕の身体に食い込む。
眼。
眼。
眼。
虎も、隙を見せない。
僕も、隙を見せない。
見せられない。
虎が僕を見つめる。
僕が虎を睨む。
見せびらかすように、牙と、赤い舌をぺろぺろする。
背筋が冷たい。
手は痺れて、感覚がない。
僕は、昔見たドキュメンタリー番組を思い出した。どんな内容だったか忘れたが、サバンナで虎がシマウマを追いかけてその首に食らいつき、がぶりともう一頭の虎がシマウマのお尻にかぶりつくというシーンを覚えている。シマウマはまだ生きていて、苦しそうな声を漏らすが、仲間のもとには届かない。生きたまま、憐れなシマウマは虎の晩餐になってしまうのだ。—————
まさか、僕も?
頚動脈が切り裂かれる。血が噴き出す。助けを求めて声を上げるが、ひゅーひゅーという音しかしない。脳は、まだ痛みを知覚するには十分機能していて、僕は足を食いちぎられるのを感じる。虎の牙が腹部に突き立てられ、内臓が破裂し、脳で血液が循環しなくなって初めて、僕の意識は身体から離れる。…………