血も涙もない。
怖い。
 そう思った瞬間、僕は一瞬だけ、虎から視線をずらしてしまった。
 ほんの、一瞬。
 時間にすると、0.001秒とかそれくらいのものだっただろう。
 そして。
 虎が姿勢を変えた。
 黄金色の風になって、うなり声を上げながら僕に飛びかかった。
 僕はとっさに腕で顔をかばい、(それがどう役に立つのか分からなかったが)傍に落ちていた枝を拾って、虎に向かって突き出した。
「ぎゅおー!」
 虎の声が、薄闇をつんざいた。
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