血も涙もない。
何が起こったのか、僕には理解できなかった。
 ただ分かったのは、目の前で虎がばったり死んでしまったということと、あたりでまた動物(もしくは虫や鳥)の鳴き声がざわざわとし始めたということだけだ。
 僕は、呆気にとられて、倒れた虎を見下ろした。
 がばっと眼を見開いたまま、暫くぴくぴくしていたが、今はもうそれもとまっている。
 僕は、拾った木の枝を見た。
 それは、木の枝などではなかった。
 包丁だ。
 刃渡りはおそらく17センチくらい、普通によく見る包丁だ。
 僕は、まじまじと包丁を見つめた。
 虎の血がべっとりついている以外は、何の変哲もない包丁だ。
 包丁に、スニーカー。
 どちらも、島にはあまりにもふさわしくない。
 どうしてこんなものがここに落ちているのだろう。
 僕は二つを交互に見たが、当然のごとく、両者には何の共通点もない。ただ言えるのは、どちらも島の動物が使うには文明的すぎるということだ。
 そもそも、ここは本当に島なのだろうか。
 僕は、二つを両腕に抱えながら、眠りについた。
 夢の中で、僕はいつか見たテレビの特攻隊員になって、銃をかついで、どどどっと襲撃を繰り返していた。

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