血も涙もない。
海は、潮の香りがしていた。
砂浜は、白く広がっている。珊瑚礁が見え、空にはカモメが飛び交っている。
日焼けのせいで、腕の皮がむける。新しい皮膚が、ぼろぼろの紙くずのような古い皮膚の下から現れる。
海岸は、影になるものがないので、僕の日焼けはひどくなる一方だ。そうやって、古い皮は、どんどんごみになって浜辺に落ちていく。
寄せては返す波を見ながら、僕は浜に寝転がった。
さっき引き上げた隣の家の百合子さんの死体は、大分魚にかじられていて、形のよかったはずの乳房も、見る影もなく潰れている。顔は、判別不能なまでに崩れていたが、その首筋にあるほくろで、辛うじてそれが百合子さんであることがわかった。
百合子さんと僕は、以前数度寝たことがあった。
あちらの方の浜では、弟の腕が波に打ち上げられてきている。
死体から外れたメガネや、靴下や、アクセサリーやその他諸々は、白い浜一面に広がっていた。満ち潮で、いくつかはまた波にさらわれていった。
僕は大きく伸びをしたが、小腸の飛び出した誰かの死体に腕が当たって、手を引っ込めた。小腸は、おそらく初めはひどい匂いがしていたことを思わせるが、太陽光で乾燥されて、カラカラに干上がっている。この島にはハエがいないので、蛆はわいていない。どす黒い内臓が、ぽとりと砂の上に落ちている。そのうち、血の匂いに誘われてやってきた肉食動物の昼ごはんとなるだろう。僕の向かって右側には、既に骨だけになった死体がある。プラチナの指輪は、かろうじて左手薬指の第2関節あたりにはまっている。
砂浜は、白く広がっている。珊瑚礁が見え、空にはカモメが飛び交っている。
日焼けのせいで、腕の皮がむける。新しい皮膚が、ぼろぼろの紙くずのような古い皮膚の下から現れる。
海岸は、影になるものがないので、僕の日焼けはひどくなる一方だ。そうやって、古い皮は、どんどんごみになって浜辺に落ちていく。
寄せては返す波を見ながら、僕は浜に寝転がった。
さっき引き上げた隣の家の百合子さんの死体は、大分魚にかじられていて、形のよかったはずの乳房も、見る影もなく潰れている。顔は、判別不能なまでに崩れていたが、その首筋にあるほくろで、辛うじてそれが百合子さんであることがわかった。
百合子さんと僕は、以前数度寝たことがあった。
あちらの方の浜では、弟の腕が波に打ち上げられてきている。
死体から外れたメガネや、靴下や、アクセサリーやその他諸々は、白い浜一面に広がっていた。満ち潮で、いくつかはまた波にさらわれていった。
僕は大きく伸びをしたが、小腸の飛び出した誰かの死体に腕が当たって、手を引っ込めた。小腸は、おそらく初めはひどい匂いがしていたことを思わせるが、太陽光で乾燥されて、カラカラに干上がっている。この島にはハエがいないので、蛆はわいていない。どす黒い内臓が、ぽとりと砂の上に落ちている。そのうち、血の匂いに誘われてやってきた肉食動物の昼ごはんとなるだろう。僕の向かって右側には、既に骨だけになった死体がある。プラチナの指輪は、かろうじて左手薬指の第2関節あたりにはまっている。