血も涙もない。
野蛮人である。
 ひょん!
 変な音がして、何かがものすごい勢いで僕の前をかすめていった。
 びっくりして立ち止まる。
 辺りの気配をうかがってみる。
 ひょん!
 また変な音がした。
 なんだろうと思って、僕は、目の位置より少し上あたりの木を見た。
 変な形の木だ。
少し視線をずらしてみる。すると僕は、そいつと目が合った。
体の大きな、おそらくリスだ。らんらんとしたこれまた大きな目で、僕を見つめている。
 動物園にいるリスはかわいいのに、愛嬌の片鱗もない、猫ぐらいの大きさで、ぶくぶく太っている。草食資源の豊富な熱帯雨林では、リスといえどもここまでぶくぶく太ってしまうのだろうか。

 僕は動物学者ではないので、もともとそういう大きさのリスのなのか、それとも単に太ったリスなのかは、あまりよく分からない。
 ともかくそいつは、見かけない僕の姿に、シーっと歯をむき出しにして、威嚇した。
 ぐりぐりとした目が、気持ち悪い。
 とがった歯は、煙草のヤニでもついたかのように、黄ばんでいる。
 若干僕の体が大きいせいか、腰は引き気味だ。いつでも逃げる用意はあるらしい。
 実際、僕が無視して歩き始めると、また
 ひょん!
 と変な音を立てながら、どこかに消えていった。
 臆病な奴だ。
 僕に相手にされたかっただけらしい。
 リスのくせに、一丁前に負け犬の遠吠えとは、驚きだ。
 その習性は、人間だけのものかと思っていたのに、それは間違いらしい。
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