血も涙もない。
記憶
 脱ぎ捨てられたスリッパを発見して、僕は自分が同じところをぐるぐる回っていることにやっと気づいた。
 見覚えのある景色だ。
 歩いても歩いても森は続いているので、道に迷ってしまったらしい。
 ハンバーグデミグラスソースがけは諦めて、僕はそこらに山ほど生えている木いちごをむさぼった。甘酸っぱくて、なかなか美味である。
 おなかも膨れたので、僕は少し休憩することにした。
 ソファの形をした岩に腰かけ、僕は空を見上げた。
 相変わらず、動物たちの声はやまない。声が枯れないのかと、こっちが心配になってくる。巨木の葉っぱはいやになるくらい緑色で、空気の中にまで、緑が入っている。沼は、インディジョーンズに出てきそうな、ぬめぬめした深緑色だ。太陽は、若干西に傾いたものの、相変わらずかんかん照りである。
 なんといっても、ここは島なのだ。
 そして、僕は一人だ。
 僕は目を閉じた。
 風が吹いてきて、あっという間に日焼けして赤くなった肌に当たって心地いい。正体不明の動物の声が、遠くなる。
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