血も涙もない。
どすん!
 何かが上空から落ちてきて、途端、僕の体にぶち当たり、僕は現実世界に引き戻された。
 びっくりして、身体を起こす。
 何だろう。
 また何かの動物かもしれないと思い、僕はしばらく身体を硬直させた。さっきのような巨大リス程度ならいいが、危険な動物(たとえば熊とか虎とか)だったら大変だ。
 身体をこわばらせたまま、僕の背中を汗がつーっと流れ落ちる。
「熊に会ったら死んだフリをしろ」
 どこかで誰かから聞いたその教訓を、僕は思い出していた。そして、実際それを実行した。上半身を起こしたまま、足をだらりとさせた僕を、熊(もしくは虎)が死体だと思ってくれるかどうかは微妙なところだったが。
 心臓がどきどきしていた。
 僕はこの島に来て、初めて恐怖を感じていた。
—————どのくらい時間が経っただろう。
 熊の荒い息遣いも、虎の垂らすよだれも感じないので、僕はこわごわと身体を動かし、何が落ちてきたのか、腰かけ岩の下を見下ろした。
「…?!」
 僕は、思わず言葉を失った。

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