血も涙もない。
夕暮れが近づいていた。
 僕の足の裏は、豆だらけになっている。足裏の皮膚は、ごわごわにこわばっていて、硬い。近頃ろくな運動をしていなかったせいだ。太ももの筋肉は、筋肉痛で悲鳴を上げていた。楽々とターザンのように木々を渡るチンパンジーを見ると、人間がいかに体力がないかを思い知らされた。
 太陽は、西に大きく傾いている。僕は、沼のほとりにへたりこんだ。足は、すっかり棒になっている。ひどい日焼けで、顔の皮膚はぴりぴりして痛い。どうしてこれだけ木が生い茂っているのに日焼けするのか、僕は島の太陽の紫外線の強さを恨めしく思った。
 沼は、相変わらずぬめぬめしている。
 喉は渇いているが、この水を飲もうとは思わない。飲んだら最後、この島で僕はゲロと下痢にまみれて果ててしまうに違いない。
 僕は改めて、手に持ったスニーカーをまじまじと見つめた。
 白いボディに、でかでかとした赤いロゴが目立つ。薄汚れていて、新品ではない。すり減った靴底からも、誰かが使った形跡が、明らかにある。
 一体、誰が。
 なくなったもう片方の、右足の方は、どこにあるんだろう。
 晩御飯代わりに、僕はまた木いちごを食べた。それくらいしか、食べられるものの判別ができなかったのだ。日陰にはキノコも生えていたが、「毒ですよ」というように蛍光色にてらてら光っていた。
 沼には、何か動物がすんでいるのか、時々水泡のようなものがぷかぷか浮いてきた。
 きょんきょんきょんきょん、という、もう聞きなれてしまった鳥の鳴き声がする。
 くぁくぁくぁっというのは、サルの声ではないだろうか。
 その他、たくさんの声が入り混じっているが、どれが何の声なのかは分からない。
 島は、一日中騒がしい。
 それでいて、静かだ。
 喉が渇いて、僕は指に付着した木いちごの汁をぺろぺろなめた。土の味がして、すっぱさに唾液が出てくる。さっき途中で清流を見つけて飲みだめしておいたのだが、歩いたせいもあって、喉はからからだ。早く飲める水を探さないと、餓死する前に水不足で死んでしまう。
< 8 / 17 >

この作品をシェア

pagetop