甘い魔法にかけられて
早く倉庫から抜け出したい一心で集中し過ぎて
KYの接近に気づけなかった

「朝から沢山ごめんね~ほら、とりあえず住民異動届を役所に出しに行ってたんだ」

聞いても無いことをベラベラと話す様子を
足元だけを見ながらやり過ごし

片手に下げていた文具入りのカゴを
はい、と突き出すと
受け取ったことを確認して

また顔も見ずに事務所へ戻る

「いやいや上村さん待って~」

・・・32歳にもなって語尾を伸ばしやがって〜

イラッとする気分に乗せて
バタバタと足音が鳴る

追いかけられながら
席に戻ると

いつものように付箋の用件を
片付けるつもりが

何故か向かいの席になったKYに
何度も何度も話しかけられ

少しずつ背中を丸くし
デスクトップモニターに隠れる

隣の小宮さんに
『よろしくね』などと
無責任な振りを加えられると

益々目の前のKYは
こちらにお構い無しに話しかける

伊達メガネを少しズラして
向こうから見れば
目に横線が入って見える感じにする

我ながら上手い隠れ方と
思った瞬間

「上村さんそれって伊達メガネでしょ~」

痛いところをつかれた
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