甘い魔法にかけられて
私もまだKYのことを名前でなんて呼んだことはない

・・・ん?【まだ】?

イヤイヤイヤ
慌てて頭を左右に振る

あきらかに挙動不審な私

それに気づく小宮さんに
「大丈夫?」

などとコッソリ囁かれたけれど

「・・・はい」

・・・頭の中がこんがらがっていて
とは言えず

混乱状態を抜け出せない私の前で
密着し過ぎの二人は

「ちょっと出かけてきます」

KYの一言で密着したまま
事務所を出てしまった

「彼女追いかけて来たのかな」
「矢野さんモテそうですもんね」

営業さんは居ない二人の話で盛り上がっていた

しばらくは騒ついていた事務所も
徐々にいつもの様子に戻り静寂を取り戻す

仕事に没頭することにした私は
午前中いつもより肩に力を入れ過ぎて
お昼休憩に応接室でため息ばかり吐いていた


・・・あれは誰?

考えれば考えるほど
悪いことしか浮かばなくて

モヤモヤする胸と
泣き出しそうなツンとする鼻と

堪えることが多すぎて
やっぱり気づけばため息ばかり

タクシーから降りてきたKY姉弟を見て
騒ついた気持ちが
あんなに簡単に浮上したのはKYがキチンと向き合って説明してくれたから・・・

でも・・・
あんな可愛らしい女性と
居なくなってしまったから

嫌でも認めなければいけない

・・・だって

だって・・・

KYは誰もが納得するハイスペック

あんなにステキな男性なら
どんな女性でも好きになる

もちろん・・・私だって

悔しいけれど
お似合いだと思った

あんなにストレートに気持ちを伝えるなんて
私には到底無理なこと

だから・・・
もうお終い

だから・・・
もう忘れる

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