甘い魔法にかけられて
翌朝、更に重い身体と頭に
鞭打つように起き上がると

いつものように支度を済ませて自転車に跨る

もしかしたら・・・

いつものようにKYが外で待っているかも
なんて心配は無用だったらしく

会社へ続く一本道は
ガランとしていた

顔を合わせなくて済むならばと
少しホッとしたけれど

事務所で「欠勤]と聞いて
なんでもないフリの胸がザワついた

頭を過るのは
昨日の女性が泊まったから離れられないKYと
体調が悪くて動けないKY

もしも後者なら・・・

【元気になるプリン】
を貰って嬉しかったことを思い出す

32歳の一人暮らしで
不自由しているかもしれない

頭の中を支配するのは
苦しそうにベッドで寝ているKY

好意を寄せているからこその
都合のいい解釈は

腕を絡ませた二人を忘れさせ

一宿一飯の恩義を
デートじゃなくここで返せば良いと

まるで正義の味方のように
人類救世だと背筋を伸ばした

終業時刻を待って
スーパーで買い物をする

スポーツ飲料とプリンとヨーグルト
そして・・・
花柄模様の付箋には
【一宿一飯の恩義です】
それだけを書いた

KYのマンションのエレベーターに乗ると
急に不安が襲って来た

さっきまでの高揚感は
嘘のように消えてしまい

緊張からか泣きそうになる
しばらく動けないまま
渦巻く感情をどうにか誤魔化すと

305号のドアの前で
震える手を伸ばしてチャイムを押した
< 49 / 90 >

この作品をシェア

pagetop