甘い魔法にかけられて
そして翌日、日曜日


朝、目覚ましより早い電話で無理矢理起こされると
デパートを隈なく歩くことになった

時折立ち止まるのは
ディスプレイで気になる服を見つけた時

「さぁ」
とか
「ほら、見て」
とか

女友達とのショッピングみたいに
提案してくれるのは航平さん

まるで着せ替え人形のように
あれこれ試着しては

「これも良いね」
とびきりの笑顔で支払う彼を見ていると

断るタイミングを失った

両手にぶら下がった紙袋を
見ているだけで

少しずつ気持ちが下がると同じに
表情も曇っていった


「どうしたの?柚ちゃん」

「ほら、沢山買ったね~」

「・・・あの、」
「あの・・・」
ようやく向き合ってくれたのは
靴まで買った後

もっと早く気づいてくれていたら
こんなに無駄遣いしなくて済んだのに・・・

(いらない)と言えなかった自分を
高い棚の上に押し上げて

出した声は

「・・・こんなに貰う理由がありません」

「柚ちゃん?」

航平さんの目を見ずに
床に吐き出した自分の声は

あまりに冷たくて
泣き出しそうになる

下唇をグッと噛んで

「わ、私、電車で帰ります、さよなら」

逃げるように走り出し
エスカレーターを駆け下りると

一度も振り返らず
電車に飛び乗った

紙袋を両手に持ったまま
呆然と立ち尽くす航平さんが

いつまでも心に痛く残った


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