甘い魔法にかけられて
気がつけば店の裏側にある家まで
小走りに駆けていた

・・・早く知りたい

ただそれだけのために
バタバタと忙しく居間に現れた息子を
訝しげに見る両親を前に

店番をしていた彼女について
質問を浴びせていた


「あら、柚ちゃんのことね」
穏やかに笑った母は

ちょこちょこ買い物に来ていた彼女に声を掛け
お茶に誘ううちにアルバイトを探している話を聞いて

配達で忙しい父と歳をとって
ペースの落ちた母の補助のために

是非にと誘ったらしい

「柚ちゃんね・・・ご両親が子供の頃に亡くなって、お婆ちゃんに育てられたんだって・・・」

生来の性格と過疎の町で育ったことで
人との関わり方が少し苦手だという

「えっと、なんだっけ・・・
あ、そうそう
【コミュ障】とかって説明されたけど
私から見れば ちょっぴり恥ずかしがり屋さん」

フフフと笑う母は

「だからね航平、うちに帰って来たのに悪いんだけど・・・
柚ちゃんがバイトで来てる日は晩御飯も
食べて帰るから・・・航平が一緒だと困るの」


「は?」

それなら一緒に食べればいいと言った口を

せっかくここまで打ち解けたのに
元の木阿弥にする気かと呆れた母は


「航平の分は二階に持って上がって」

トレーに乗せられた晩御飯を
一人寂しく食べることになった
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