甘い魔法にかけられて
結局のところ母から何度も
今の関係を壊さないでと念押しされ

正面きっての挨拶はおろか気配さえ消すことになった自分

でも・・・

「一目惚れ・・・だな」

自室で寂しく食べる食事も我慢したのは
惚れた弱みってことで
彼女がもう少し人に慣れるまで
気長に待つことにした

それは母も気づいたようで

「航平の気持ちは分かるけど
ほら、長期戦を覚悟出来ないなら
柚ちゃんのことは諦めなさい」

味方もしてもらえない
片想いが始まった



大学で一人暮らしを始めてから
実家に帰るのは年に2回がいいところ

それが
多い時には月に3回も顔を出すようになった

そのうち諦めると思っていた母も

「意外と真剣に考えてんのね」
なんてフフフと笑う

それでも彼女のレジに並んで
文房具を1つずつ買うのがやっと・・・

どれだけ月日が過ぎても
声もかけられないでいた

そうこうしているうちに
彼女の就活が始まり

相談を受けていた両親は
あっという間に卸問屋の社長と彼女を会わせた

姉貴も俺にもそんな手を差し伸べたことのない両親
その理由を“それなら航平も関わりあるよね”
そう言って笑った母は

案外味方なのかもと思い直した
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