幸せのカタチ〜Fleeting memories〜
笑顔の奥野さんを見て俺はびっくりした。
「あっ!おっお疲れ様。どうしたの?」
焦って俺は言葉が詰まり、どうしたの?なんて意味不明な発言をしてしまった。
「お疲れ様。私もこのバスなんだー。バス停来てみたら人の多さにびっくりして、とりあえず並ぼうかなーと思ったら見慣れた後ろ姿を目撃したので!」
奥野さんは終始笑顔で返してくれた。
気付けば俺の後ろにはもう最後尾がどこなのかわからないくらい列が伸びていた。
「えっ?あぁそうか。奥野さんも家こっちの方だもんね。いつもバスなんだ」
俺はまだドキドキしている。
「高校に行く時もこの駅使うから毎日バスで通学してるんだ。定期だから乗り放題なんだよ?なーんてねっ!んじゃ私も並んでくるわ!」
奥野さんが俺に背を向けて列の最後尾に行こうと歩いて行く姿を見て俺は自然と身体が動いてしまった。
「ちょっと!奥野さん!」
気付けば俺は列から飛び出し、列の最後尾に並んでいる奥野さんの隣まで走ってきて声をかけていた。
「えっ?何?どうしたの?」
奥野さんが驚いている。
「えっとー…あっ!あの今日出た現代文の課題わかった?次の授業で順番的に俺当たりそうだろ?でも答えに自信なくてさー」
俺は自分でもわかるくらい下手な誤魔化し方をして、奥野さんの隣に来た。
でもその時は精一杯誤魔化したつもりだった。
「あの問題けっこう難しいよねー。結局最後まではできなかったけど、設問3まではやったかなー?まぁ私今日当たったから次は大丈夫だと思ってちょっと安心してるんだぁー」
イジワルそうに笑いながら奥野さんは答えてくれた。
俺の下手な誤魔化しは見抜かれていたかもしれない。
でもそこには全く触れず、奥野さんは自然に話をしてくれた。