幸せのカタチ〜Fleeting memories〜
「俺一応全部やってはみたんだけど、特に最後の設問5がなんか違う気がしてさぁー。またできたら答え教えてくれない?」
俺は奥野さんの顔の前で両手を合わせ、お願いをした。
奥野さんは「わかったよー」と笑顔で言ってくれた。
俺はようやく平常心に戻りつつあった。
「今日は一日中雨だねー。だから人もいつも以上に多いのかなー?」
奥野さんが空を見ながら話してきた。
「雨ってホント嫌だよねー。気分が全然上がんないし。俺今日一日中テンション低いわ」
なんて俺は大嘘をついていた。
雨が嫌なのは本当だ。
でもこの時の俺のテンションは快晴の時よりも上がっていた。
なぜならずっと気になっていた奥野さんとようやく面と向かって話すことができたのだから。
雨の日でしかもバスに乗ってきてよかったなどと思えたのはこれが初めてだった。
バスで座りたいという気持ちもこの時ばかりは頭になく、ただただ奥野さんと直接会話できていることに喜びを感じていた。
だから勝手に身体が動き、並んでいた列から離れたことも全く後悔などしていなかった。
「あっ。やっとバスが来た。」
奥野さんがバスを見つけて声を発した。
列が動いていくと2人同時に並んで歩く。
なんとか乗れることは乗れたがぎゅうぎゅう詰めだ。
俺の胸のあたりに奥野さんの頭が当たる。
いわゆる超密着状態だ。
「ごめん。大丈夫?」
「うん。平気だよ」
俺の体の中にスッポリ収まっている状態の奥野さんを俺は気にかけた。
さすがにこの状態では顔を見ることもできず、会話もままならない。
乗車が完了し、バスが発車する。
俺の降りる駅はまだまだ先だったが、バス停に止まる度に人が1人、また1人と減って行き、次第に密着状態は解けていった。
俺の降りるバス停まで後5つとなった時、ようやく会話ができるくらいにバス内の人が減った。
「超満員ってまさにこれー?俺こんなぎゅうぎゅうのバス初めて乗ったわー」
人がぎゅうぎゅう詰めになって乗っているバスを見たことはあったが、これまで決して俺はそのバスに乗ろうとはしなかった。
乗っていたとしても俺は座席に座っている。
しかし今日ばかりは奥野さんもいたので、一緒に帰れるという嬉しさが俺の感性を鈍らせた。
「私もここまで多いバスは久しぶりかなー。いつもだいたい座れてるし。てゆーかそもそも座れるバスじゃないと基本的に乗らないんだけどね!」
奥野さんは笑いながら俺の顔を見て言っていた。
「俺もー!座れないってわかったら次のバス来るまで待ったりとか普通にしてたわ!」
俺も笑いながら返す。
「わかるー!座れる射程圏内?がバス停に並んでる人数からだいたいわかるからねー」
お互い共感し合えたことが嬉しかったのか、俺と奥野さんは少し興奮気味にバストークで盛り上がっていた。