幸せのカタチ〜Fleeting memories〜
「あっ!私次だわ。」
奥野さんの降りるバス停にもうすぐ着く。
俺の降りるバス停の一つ前だった。
『バス停一つくらいなら歩けるか』
俺はそう考え、咄嗟に言葉を発した。
「俺も次だわ」
奥野さんはえっ?といった顔をしていた。
「涼の家ってもう一つ次のバス停の方が近いんじゃないの?」
奥野さんが申し訳なさそうに聞く。
「んー正直あんまり変わらないんだよねー。乗る時はたしかにそっちなんだけど、降りる時はちょっと行き過ぎちゃうから帰りはどっちも似たようなもんなんだー」
俺は笑顔で答えた。
帰りのバス停から家までの距離はどちらでもたいして変わらなかったというのは本当のことで、現に俺はどちらのバス停でも降りて帰ったことはあった。
「それにもうこんな時間だし、バス停からでも1人で家まで歩いて帰るのは危ないから、家の前まで送らせて」
俺はお願いするように奥野さんに言った。
時間は夜の10時を過ぎていた。
俺たちの地元は街灯も少なく、人通りも少ない為、夜道に女性1人というのは危険だった。
俺の姉も夜道で変な奴を見かけたことがあったと俺は最近聞いたのを覚えていた。
奥野さんの表情は少し困っているようにも見えたが「ありがとう」と言ってニコッと笑ってくれた。