幸せのカタチ〜Fleeting memories〜

俺と奥野さんはバスを降りて2人並んで歩き出した。
バス停から奥野さんの家までは徒歩5分くらいで着く。
大通りにあるバス停から閑静な住宅街の路地に入り、しばらく歩くと奥野さんの家に着く。
街灯は少なく、時間も夜10時を過ぎているということもあり、やはり女性1人ではなんとも危なっかしい道だ。


「この道いつも暗くて怖いからダッシュで帰るんだー」

奥野さんが笑いながら言っていた。

「まぁたしかに人も少ないもんね。でもまぁ住宅街だからなんかあったら叫べば大丈夫じゃね?それか一緒にダッシュする?(笑)」

俺も冗談で返すと横からの視線を感じた。

視線の方を向くとそこにはニヤニヤしている奥野さんの顔があった。

「今日はダッシュしなくても大丈夫だもーん。いざとなったら私が涼のことを守ってあげるよー!っなんてね!(笑)」

奥野さんが俺の背中をパチーンと叩いてエヘヘと笑っていた。

俺はそんな奥野さんの仕草に胸の奥がザワザワしているのを感じた。

『奥野さんお茶目過ぎでしょ!』

多分夜じゃなかったら俺の気持ちはバレていたかもしれない。
それぐらい俺の顔は熱くなっていた。

そんな冗談を言いながらも歩いていくとあっという間に奥野さんの自宅前に着いた。

「送ってくれてありがと。んじゃ涼も気をつけて帰ってね!なんだったら私が家まで送って行こうか?(笑)」

最後まで冗談を言う奥野さんだったが、そんな彼女の笑顔を見て俺は身体中が熱くなる感覚になっていた。

「お気遣いどうも。んじゃまた!」

手を振ってから俺は自分の家へと向かって奥野さんに背を向けた。

角を曲がるところで一度振り返るとまだ玄関前でこちらを見ている奥野さんがいたので、向こうからも見えるぐらい大きく手を振ってみた。
すると奥野さんも手を振り返してくれた。
クルリとまた背中を向け、俺は角を曲がり、そのまま家に帰った。

奥野さんの家から俺の家まではこれまた歩いて5分くらい。

ピコン♪

ちょうど俺が家の玄関を開けて家の中に入った時に携帯が鳴った。


『今日はバス停から送ってくれてありがと。おかげで帰り道は全然怖くなかった!ホントに1人の時は走って帰ってたりしたから涼が一緒にいてくれてすごく嬉しかった!涼は無事に帰れたかな?』

奥野さんからのメールを見て俺はつい口元が緩んでしまった。

「おかえり。どしたの?そんなとこ突っ立って。」

母がリビングから出てきて、帰ってきた俺に向かって声をかけてきてくれた。

俺はハッとして携帯をポケットにしまい、「いや別に何も。あー腹減ったわー」とその場を誤魔化し、リビングへと向かった。

「晩御飯置いてあるから温めて食べなさい。んじゃ先に寝るねー。」

母はそう言い残し、2階の寝室へと上がって行った。
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