【完】溺愛フラグが立ちました。



 おっ、大きな手……。あたたかい。

 女の私の手よりゴツゴツしているというか。骨ばっているんだろうなって想像するだけでドキドキが増す。


 ナマミの男性の破壊力……、すごい。


「可愛い手ですね」

「っ、小さいんです。指も短いし」

「いいじゃないですか。包み込みやすい」

「……ピアノを、習っていたんです。七年ほど」

「ほう」

「オクターブが……低いドと高いドが、なかなか同時演奏できなくて苦戦しました」

「好きですよ」

「え!?」

「ピアノの音色」

「あ……そ、そうですか」

「聴いてみたいです。知冬さんの演奏」


 幸い前の席はなく壁で。

 うしろにはお年を召したご夫婦がいて、もう眠っているみたいで。


 このくすぐったいような会話は

 誰かに聞かれてはいなさそう……だけれども。


 恥ずかしいったらありゃしない。

 なのに無性にドキドキしてしまう。


 ねえ、トノセさん。

 私を殺しにかかっていませんか……?


「今夜、ずっとこうしていてもいいですか?」


コートの下でそっと握りしめられた手に力が加えられる。


「……え」


(なにゆえに!??)



 『離して』って、言えないのは

 まだ、その手を重ねていて欲しいから。



「寂しいこと言わないで下さいよ」

「……?」

「『東京に戻るつもりはない』だなんて」

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