土方歳三の熱情
「お騒がせしてすいません」

私は土方さんに向かって頭を下げる。

「もともと声が高いんですが、驚くと特に高い声が出てしまうんです」

「で、いったい何に驚いたんだ?」
土方さんは不思議そうな表情のまま言う。

私がどうこたえるべきか考えていると
横から島田さんが嬉しそうに割り込んで来る。

「それがこいつゴキブリに驚いて叫んだんですよ土方さん。
こいつ、あんなに強いのにゴキブリが足元を走っただけで急に取り乱しちゃって、変なヤツですよ」

周りの隊士達も笑っている。

土方さんも笑っているがその目は笑っていない。

土方さんは道場で見せたのと同じ鋭い目つきで私を見ている。

私の心の奥底を覗き込んでいるような視線がつきささる。

「まぁ誰にでも苦手なものはあるさ。
お前ら、あんまり笑ってると篠田に道場でブチのめされるぞ」

土方さんは穏やかな表情で、笑っている隊士達をたしなめる。

たしなめられた隊士達はぴたりと笑うのをやめて土方さんに一礼して去っていく。
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