土方歳三の熱情
あわてて木刀を拾い構え直すが、その時
「もうよい!」
と大きな声が響き渡る。

隊士はあわてて後ろに下がって一礼する。

それにならって私も一礼を返す。


「篠田伊之助殿、噂にたがわぬ腕前ですな」

私は声の主に目を向ける。

声を発したのは新撰組幹部の中でもひときわ目つきの鋭い男だった。

真ん中に座っている大きな人がきっと新撰組局長の近藤勇。

その右隣にいて場を取り仕切っているこの人がおそらく副長の土方歳三という人だろう。

考えながら私は、できるだけ低い声で
「ありがとうございます」
とこたえる。

「女性のように華奢な方ですから大丈夫なのかと思いましたが、さすがですな」

土方さんの右隣にいる男にそう言われて、私はその生まじめそうな男に軽く目礼を返す。

「剣に厳しい永倉が褒めるとは珍しい。まぁそれだけの腕前ということか」

土方さんはうなずきながら少しだけ微笑んだ。

あの男が二番隊隊長の永倉新八、
近藤さんの左隣にいる美しい顔をした人が一番隊隊長の沖田総司にちがいない。

私がそんなことを考えていると永倉さんの右隣の人物が口を開いた。
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