土方歳三の熱情
「しかしあくまで道場の中の剣ですな。
実戦の経験を積んでいるようには見えない」

土方さんがこたえる。
「そりゃそうさ斎藤、
君のようにうちに来る前から人を斬った経験があるのは珍しいだろう」

斎藤と呼ばれた男は苦笑いしている。

あの人が三番隊隊長の斎藤一という人ね。

私は新撰組幹部の主だった人達の顔を確認して少しだけホッとした気持ちになる。

道場の周囲をグルリと囲む新撰組の隊士達の中にはいかにも荒くれ者といったタイプの人もいるけど、
幹部の人達はみな、知的で意外と優しそうな顔立ちの人が多い。

この土方という人も、
時々心の奥までのぞき込むような鋭い視線を送ってくるけれど、
賢そうだしきっと話の分かる人に違いない。


「こちらから頼んで来てもらった上にこの腕前だ、
ただの平隊士というわけにはいかんだろう」

土方さんはそれだけ言うと隣に座っている近藤さんと何やら小声で相談している。

小さくうなずくともう一度こちらに向き直って言う。
< 3 / 72 >

この作品をシェア

pagetop