土方歳三の熱情
なにしろ私は自分が女だということを隠して新撰組の隊士になったのだ。

この秘密が明らかになったらタダでは済まない。

当然わたしも責任を取らされるだろうし弟や父もただでは済まない。

新撰組のメンツを守るために、
おそらく私が殺されるか弟と父が切腹させられるか、
あるいはその両方か。

とにかく、土方さんを好きだというこの気持ちは私の胸の中に秘めておいて
誰にも悟られないようにするしかない。

そう固く決意するのだけれどすぐにまた、
そういえばさっきは土方さん顔だけじゃなくて目も笑ってたな、
なんてことを考えてしまう。

いつか私が女だとバラしてもいい時が来て、
それから土方さんに私の気持ちを伝えて、
土方さんも私を好きになってくれる。

不可能そうなことを三つもクリアしないと私の恋は成就しない。

絶望的だね、と声に出してつぶやいてみるけれど、
昼間感じた土方さんの息遣いを思い出してまたニヤついてしまう。

こんな絶望的で危機的な状況で笑みを抑えられないなんて、
恋っていうのは本当に人をバカにしちゃうんだなぁ、
ちっとも知らなかった。
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