土方歳三の熱情
本来の土方歳三は優しくて穏やかで私のすべてを包み込むような器の大きさを感じさせる人だ。

それはまるで春の日の空のように、
爽やかに暖かく私を覆いつくしてくれる。

でも今夜の土方さんは新撰組の屯所にいる時のような厳しい表情をしている。

私の心暖かな時間は昨日でもう終わってしまったのかもしれない。

私が黙っていると土方さんが続けて言う。

「オレはお前と暮らしたいが、そのためにはお前の家族を死なせるしかない。
オレはそれでも平気だが、
おまえは家族の死の上に自分の幸せを築けるほどツラの皮が厚くはないだろう。
それにそもそもおまえは別にオレと暮らすことを望んでいるわけじゃないだろう。
オレに遠慮することはない、
オレの気持ちになんか構わずどこか遠くの町で好きなように暮らしたらいいんだぞ」

私に良かれと思って言ってくれているのは分かるけど……

そんな言い方、
私の気持ちも知らずにひどすぎる。

私は声をあげて泣き出したい気持ちになった。
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