ぜんぶクリスマスのせいだ。
なんだかむきになってしまって、さっきより強く三宅の胸を押す。すると三宅は案外あっさりと離れていった。
三宅は少し後ろに下がりながら、軽く舌打ちをした。
今舌打ちした!?
驚きと戸惑いで声がでなくなってしまって、心のなかだけで思いを叫ぶ。
「……別れたんじゃなかったのかよ」
「え……なんで知って……」
“菊地から聞いた”と、三宅の口から社内で最も仲の良い友人の名前がでてきて唖然とした。
なに普通にフラれたこと三宅に言っちゃてるのよ佳苗。
友人からの裏切りに軽く戸惑っていると、三宅はすでに食べ終わったあとのパンのゴミをポケットに突っ込んで再び私の方を見る。
「だから傷心につけこんでやろうと思って」
「は……?」
「クリスマス前にフラれて、さぞ寂しい誰かさんを揺らがせるために今から全力で口説くから黙って受け止めろ」
ふっと笑って、自分の首に巻いていた青いマフラーを解いて、ふわっと私の首にかけた。
冷たい風に流れてマフラーについている三宅の香りが鼻に届く。
……ダメだ。なにこの空気。こんなのもう逃げられない。
緩やかに細められた目に射ぬかれて、もう息をすることも忘れてしまいそうになる。