その手が離せなくて

ゆっくりと動き出したエレベーターの中に、重たい空気が流れる。

今にも逃げ出したい気持ちになるけど、逃げ場なんてこの箱の中のどこにもない。

せめて目は合わせまいと、足元に視線を向けて息を殺した。

それでも。


「久しぶり」


沈黙を破ったのは、彼の方。

そのビー玉の様な瞳を、ゆっくりと私の方に向けた。


「・・・・・・お久しぶりです」


目も合わせずに、そう言う。

どこか素っ気なく、業務的に。

それでも、視線を感じて彼の方へ顔を向ける。

目が合った瞬間、何故か泣きたくなった。

見惚れてしまう程、精悍なその顔は今も変わらず私の胸を締め付けたから。

だけど――。


「指輪」

「――」

「どうして今まで外してたんですか」

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